ウィンター！部活動のお時間です！～運動部編～｜リアクション

ウィンター！部活動のお時間です！～運動部編～

「……この季節、外寒いな……」
　志波拓郎はジャージのジッパーを上までキュッと閉め、軽く飛び跳ね体を温める。時折冷たい風が吹く中でも、寝子高陸上部員は元気にグラウンドに散らばっていった。拓郎は幅跳び用の砂場の近くだ。
　ゴミ袋を持って拓郎は静かに砂場を見つめる。
　４月からずっとお世話になっていたこのグラウンドと砂場。普段はあまり気にならなかったが、こうして改めて見てみると、結構草が生えていたり枠に砂が散っていたりと気付く事がたくさんある。
（今年の汚れや荒れは、今年のうちに正さないとな）
　拓郎はうんと頷き、１年の感謝を込め掃除を始めた。

（帽子、よし！　手袋、よし！　気合い、よし！）
　シャキンと若菜はグラウンドに立つ。草むしり用の完全装備だ。
　雑草とはたくましいものだ。冬だというのにグラウンドの隅など、少しでも踏み固められてない所はあちこちから緑が顔を出している。その根性には脱帽するばかり。
　寝子島高校のグラウンドは陸上部だけではなく様々な部活が使用する。
　来年も気持ちよく使えるように。自分達だけじゃなく、他の部活も気持ちよく使えるように。
　若菜は皆の様子を見ながら、まだ人がやっていない所を選び、丁寧に草むしりをしていく。
「む、むむ……！」
　雑草を見たら、その根は上の３倍生えてると思え。
　草むしりは力仕事だ。その細腕に力を込め若菜は雑草と格闘する。
（結構しんどくて大変だけど、だからこそやる必要があるよね！）
　若菜は頑張る。部員達は頑張る。
　そして彼らのお陰で、今年寝子高生がお世話になったグラウンドが、少しずつ綺麗になっていく。

（……こんなにあるんだな）
　拓郎が持っていたゴミ袋は大分いっぱいになってきた。それと比例して周囲の雑草はほとんど目立たなくなっている。それでも拓郎は丁寧に草をむしり、砂場の細かなごみや、枯れ葉、石なども取り除いていく。そして最後にとんぼで丁寧に砂場を慣らしていると、若菜が顔を出した。
「わ、拓郎君袋いっぱい！　頑張ったねー」
　拓郎も若菜を見て答える。
「先輩の……袋も……いっぱい、です……よ」
　２人はお互いがお互いの袋を見て。あははとちょっと照れながら笑った。
「でも綺麗になったよね、グラウンド！」
　若菜は眼を細めて周囲を見渡す。隅の方にぼうぼうと伸びていた草も綺麗に刈り取られ、グラウンドはすっかり気持ちの良いものになっていた。
「ほんと……みんな、頑張っ……た」
　拓郎も背筋を伸ばしグラウンドを眺める。何だか空気までが気持ちいい。２人が充実した気持ちで立っていると、そこに正也が駆けてきた。
「十文字さーん、そろそろ次に移ろうか。俺は後木ちゃん連れて部室行くから、用具入れの掃除を始めてもらっていいか？」
「あ、はいはい了解」
　若菜と正也は次の手順を話し合いながら歩いて行く。拓郎もとんぼとゴミ袋を持って移動しようとしたが、ふとその足を止めて振り向いた。

　そこには、見違えるように綺麗になった砂場があった。自分の今年の頑張りを知っている砂場。色々な思いを知っている砂場。―――入学してからの９ヶ月、ありがとう。
「来年も……よろしく、頼む……」
　拓郎は、小さく独り呟いた。