あの日あの時。ぼくは笑顔を失っていた。その理由は………………｜リアクション

あの日あの時。ぼくは笑顔を失っていた。その理由は………………

　４　

　雨が、降っている。
　今日は１日止みそうにない。天気予報を見なくても、空模様を見るだけでそれは判断できた。
　雨脚は強い。ばたばたばたと傘に当たる雨の音を聞いていると、思考も雨の音に支配されていく。その中で、ふと昔のことが脳裏に浮かんだ。
（思い出したくもないのに……）

　――千堂結は自分の目が嫌いだ。それでも、好きになろうとした自分もいた。
　幼稚園の時はひどく平和だった。でも、その平和は束の間で、小学校に入ってから唯はいじめられるようになった。
　原因は、生まれつきのこの黄色の目だ。
「おかしな色の目ー！」
「変なのー！」
　そう囃し立てられるだけではなく他にも色々ないじめを受けた。
　カラーコンタクトにすれば良かったと言う人もいるかもしれない。だが、元の色は黄色なのだから、現実は変わらない。カラーコンタクトの下は、相変わらず黄色なのだ。
　――誰の遺伝でもないこの目を、くり抜いてやりたいと思うこともあった。
　でも、そんなことはできない。
　結果として、結はこの黄色の目に対して何も対策ができなかった。祖父の言葉が、彼女の行動に歯止めをかけていたのだ。
　祖父は結の黄色の目について、
『好きになる努力をしなさい。曝け出しなさい』
　と言っていた。
（だから私は、カラーコンタクトもしないで、コンプレックスを曝け出して生きてきたんだよね……）
　けれど、この目を隠さずにいても更にいじめが加速するだけで、結はますます自分の目が嫌いになった。
　小学生は良くも悪くも純粋で、思ったことをそのまま口に出す。
　それは結の心に深く深く突き刺さり、癒えない傷は増えていく。
　同じ学校に居続ければ、いつか飽きられることもあったかもしれない。
「でも、私は転校が多かったから……」
　両親の仕事の都合もあり、各地を転々とした。その度に知らない子達に囲まれ、いじめもゼロからリセットされる。
　どの学校でも、この黄色い目が受け入れられることはなかった。
　結が特に何をしたわけでもなく、ただ目が黄色というだけで、好奇の視線に晒され、的にされる。
（……今でも、怖い）

『変なのー』

　と、聞こえてくるような気がする。そう言われるような気がして、妄想を張り巡らせてしまう。
（この目を『好きだ』と思える日は来るのかな……）
　でも、たった１人、『綺麗だ』と言ってくれたクラスメイトがいた。
　その時の言葉が、今の結の支えになっている。
「…………」
　――遥か昔に言われた言葉に、また蓋をしながら。
　色んな感情が入り混じる。
　思わず泣きそうになって、結は傘の下で顔を伏せた。