狼は九夜山に吼える？｜リアクション

狼は九夜山に吼える？

「なぁ、聞きたい事があるんやけどええか？」
　清一郎が烏へと問いかける。だが、烏は今にも攻撃してきそうな勢いだ。よく見れば、爪が赤々と光っている。それはまるで、燃える鉄のようだった。
（――っ？！　あれって燃えてるんやないかっ）
　息を飲んだその時、烏が飛び込んできた。だが、礼拝堂で見たときに比べ勢いが弱い。清一郎は考えるよりも早く、水の入ったペットボトルを投げた。瓢がつけた蝋燭の光に反射し、その光に烏が僅かに身を翻す。
『これは、聖水の瓶？！』
　その言葉に耳を疑う２人。この烏はペットボトルを知らないようだ。警戒するようにペットボトルから距離をとる烏。
『割れぬ瓶など見た事がない。……素材が硝子ではないな？』
「そうやな。やけど、突付けば聖水が毀れるで？」
　清一郎はかまをかけてみる事にした。烏は聖水を恐れているのではないか、と。烏は爪を使うか、くちばしを使うか少し考えたあと、すう、と音もなくわずかな影へと吸い込まれていった。
　得られた情報は少ない。だが、烏が聖水を恐れている事と、あのカラスの爪が熱を持っている事はわかった。瓢はふぅ、とため息を吐きながら落ちた羽を拾う。やはり、その羽も黒かったが……彼は内心で首をかしげた。
（朱雀族は熱を操る。……目の前の烏は、熱を操っている？　まるで朱雀族のようだねぇ？　だけど何故か……ものすっごく混沌の匂いがするよぉい）
　にたり、と笑う瓢に、清一郎が脱出を促す。彼は黒い羽を手にしたまま「あいよ」と返事をして共に部屋を出るのだった。

　その頃、サキリ・デイジーカッターはツムジと共に懺悔室にいた。薄暗く、静かで渇いた空気のなか、３つある懺悔室を１つずつ見て回るのはちょっと怖い。
「確かに、狼の声がするね」
『うん』
　薄暗い中、狼の声が聞こえてくる。１人と１匹が懺悔室の１つへと入ろうとすると、後から記士郎がやって来た。
「今、火をつけますね」
　そう言って、彼は見つけてきた瓶に紙を差し込んで火を灯す。と、柔らかな明かりが周囲を照らした。
　サキリとツムジは礼拝堂を出る前、そこにつけられた爪あとを調べていた。あの焦げたようなそれが、礼拝堂にもつけられている。文字のようにみえなくもないそれに、記士郎もまた首を傾げる。
　ところが、ふいにツムジが周囲の匂いをかぎ始めた。不思議に思い、サキリは声をかける。元々ツムジの嗅覚が探索に生かせないか、と思っていたが……。
「何か、匂いがする？」
「はい、父のにおいがしますっ」
「もしかしたら、ライメイさんが……」
　サキリと記士郎がツムジの護衛をしつつ３つの懺悔室を調べる。だが、そこには手がかりになりそうなものは無かった。少しばかり肩を落としたツムジにサキリは声をかける。
「きっと見つかるよ。だからそんなに落ち込まないで」
　ツムジは「うん」と小さく頷く。
　だが、そこで記士郎は何かのけはいが動くのを感じた。『それ』は烏のように殺気だったものではなく、何かを探すような雰囲気があった。
（誰でしょう？）
　記士郎がサキリとツムジに「静かに」とジェスチャーで伝え、神経を研ぎ澄ました。

　一方、桜庭円は腐食した床の一部を蹴り落とし、地下を覗いていた。傍らには護衛をかねて御剣刀が控えている。後から合流した弘明寺能美子は不安げに円を見ていた。
「地下に、行くつもりなの？」
「道がありそうな気がするんだよね～」
　能美子の問いかけに、円は答えながら色々と思い出し、思考を巡らせる。
（礼拝堂の壁に残った爪あとは、明らかに焦げていた。巧せんせーの背中の傷も火傷みたいだった。って事は……あの爪、熱があるのかな？　それにしても……）
　円は黙ったまま地下を見つめる。渇いた匂いがし、それでもライターを頼りに中を見る。と、そこには何もなかった。ただ、建物の基礎部分が見えるだけである。
「外れたかな？」
「まぁ、床がギシギシ音を立ててボロボロではあったけど地下室への道はなかったな」
　円と刀は苦笑しあいながらも周囲を警戒する。一方、能美子は円が危ない行動にでないで済んでよかった、と内心でほっ、とため息をついた。
　円はその暗闇を見ながら内心でため息を吐き、考察をめぐらせた。
（手負いの上で結界を張っているって事は相当の覚悟の上だよね。どうにか話とかできないかな）
　彼女は、地下にライメイがいるのでは、と考えて行動に移したが、空振りだったらしい。それを認識すると刀、能美子と共に近くにあった板でその穴を塞いだ。

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狼は九夜山に吼える？

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