年賀状準備中！｜リアクション

年賀状準備中！

〒　眼鏡さん教団寝子島支部

　分厚い眼鏡をかけた太った男鯖江連司は、公務員であった。
　だがそれは、世を忍ぶ仮の姿とも言える。
　連司のもう一つの顔……それは、眼鏡と眼鏡をかけた人を至高の存在として崇める自称宗教団体『眼鏡さん教団』の寝子島支部長だった。
　本日の連司の任務は、年賀状の準備だった。
「日本全国津々浦々の眼鏡さん教団の同志に年賀状を送るでござる。特に今年は、眼鏡さん教団寝子島支部誕生と拙者の支部長就任の報告、それに引越しの連絡もせねばならぬゆえな」　
　謎多き眼鏡さん教団は全国にあるようだ。
　連司はねこったーに書きこみをする。
『本日は眼鏡さん教団の年賀状を作成するでござる。年賀状に使う画像はもちろんメガネザルでござる。干支と眼鏡が奇跡のコラボでござるよ』
『……メガネザル？』
　ねこったーについたレスを見て、連司はつぶやく。そして書きこむ。
「あ、いや、拙者とてメガネザルが本当に眼鏡をかけているのではない事くらい承知の上でござる。『メガネザル』が悲しいかな、眼鏡さんへの蔑称として使われている事実も知り申しておる」
『なれど！　そこに眼鏡と名の付くものがあれば愛さずにはいられない！　それが眼鏡さん教団の魂なのでござる！』
　眼鏡に関してはとにかく熱い連司である。

　そしてまたたび動物園へ行く途中も、教団員としての務めを忘れない。
「ご店主、おはようございますでござる！　今日も魅力的な眼鏡が揃っているでござるな！」
　旧市街の浅葱眼鏡店で眼鏡を愛でたり購入したりするのが連司の日課なのだ。
「……おはようございます」
　店主の浅葱あやめがぼそぼそと挨拶を返す。
　店内の眼鏡を一通りチェックし、今日のお気に入りの眼鏡を購入する。
「本日は年賀状作成のため、動物園へ本物のメガネザルを見に行くでござる。ネットでフリー画像を探しても良いのでござるが、動物園に行けば『普段は裸眼だけど何か見に行く時だけ眼鏡をかける』という隠れ眼鏡さんを見られるやもしれぬゆえ！」
「はあ……ありがとうございます。いってらっしゃい……」
　ありがたいお得意様ではあるが、微妙に警戒心がぬぐえないあやめであった。
「年賀状ですか……うちもそろそろ用意しなくては」
　連司を見送ったあやめはそう呟いた。

　またたび動物園は、クリスマスのサンタイベントは終わっていたがそれなりに賑わっていた。
「ヌオオッ！　動物園は期待以上の眼鏡さん率でござる！　眼福眼福」
　眼鏡さんに見惚れる連司だが、本来の目的を思い出した。
「危うくメガネザルを忘れるところでござった」
　案内マップを見てメガネザルの檻へと向かう。
「ヌフフ、やはりメガネザルは眼鏡をかけているようでかわいいでござる」
　メガネザルの眼鏡を目に焼き付けた後、メガネグマも見て行く連司だった。

　帰宅後はさっそく年賀状製作にとりかかろうとしたが。
「はて、眼鏡以外の手足の記憶は曖昧でござるな」
　ネット検索で確認しようとするも。
「つい、眼鏡さん画像を無限ループで眺め続けてしまうでござる……げに恐ろしきは眼鏡の魅力でござるよ」

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