いぬねこのクリスマス学習会｜リアクション

いぬねこのクリスマス学習会

【その朝日が差す前に】

　岬の先が薄ら明るくなってきた。
　その中央に転がっていた不思議な真っ黒な石も、陽炎のように揺らめいている。
　荷物をまとめたいぬねこ達は、集まってくれた人にぺこりと二本足で頭を下げた。

「そうだ、帰る前に！
　ちなみに、これがサンタクロース衣装です」
　そう言うと、桜庭円はサンタさん姿のにゃーくんを肩から下ろし、いぬねこ達の方へとくいくい押した。
　にゃーくんを取り囲み、歓声と共に必死に頭にその服を焼き付けていくいぬねこ達。
「つまり！
　君たちがサンタになって、皆を楽しませれば成功なんじゃないかな？
　夢をそして楽しい時間を！　って所で。
　あ、これ資料です」
　一気にいぬねこの猛烈な視線に晒され、緊張に溢れたにゃーくんが肩によじ登るのと同時に、円はクリスマスイルミネーションの写真をいぬねこ達に差し出した。
「おおっ！　これは凄いものでござるワン！」
「是非、これが祭りのメインになるようにしたいニャッ！！」
　いぬねこ達は目を光り輝かせその写真を見つめながら、もらい物と同時にあちこちから集めてきたお土産袋に入れていく。

「あ、あの……っ！　あと、これを──」
　綾辻綾花が、丁寧に丁寧を重ねた、肉球マークの袋に入った中身をねこ達に一旦広げてみせた。
　それは形的にねこのものだと分かるサンタの衣装。あちこちの縫い口から、細かく採寸されている事が良く分かる。
「これを、猫の王さまに渡してほしいんです！」
　──いぬねこ達が、そのトップと仲が良くはない事は、先だってのやり取りで良く分かっていた。それでも。
「……まあ、会って渡すだけなら……
　せっかく、これだけ良く出来た衣装だニャ。あの王さま喜ばなかったら半引っかきにするニャ」
　本来はとても正直ないぬねこ達。不承不承ながらも、その出来と熱意に断れず、落ち着かなさそうな様子でそれを受け取った。
「受け取ったからには、必ず渡すニャ」
「ありがとうございますっ」
　綾花はねこ達に頭を下げた。

「（猫の王さまは幸せを届けてくれるサンタさんみたいです）」
　革新派のねこ達と、猫の王さまとは想像以上に溝が深そうで。綾花は一緒に本当は伝えたかった言葉を飲み込んで、代わりに告げた。
「皆が仲良くなれるように私も考えます。
　もしクリスマスにイベントするなら呼んでくださいね。
　必ず行きますから！」

「しかし、これは予想以上に立派なクリスマスになりそうでござるワン」
「完成度を上げる為に、今年は『ぷれ・クリスマス祭り』にするのはどうかニャ？」
　皆が見送る中を、いぬねこは一同希望に満ちた眼差しで、もう堪え切れないとばかりにクリスマスの話をしながら帰っていき──

　最後のいぬねこが大岩の中に消えると同時に、大岩そのものもエノコロ岬から消滅した。

　皆が思い思いの帰途に着く。
　……とは言え、もう朝日が差してきた中だ。殆どの面子が慌てふためき帰っていく。
「さて、随分遅くなっちゃったし急いで帰ろう」
　そんな事を言いながらも、のんびりと歩みを進める御剣刀とその腕に抱えた人形のルヴィア。
「ルヴィア、もし欲しいものがあったら言えよ、クリスマスだしな俺がプレゼントするよ」
　刀が愛しそうに話し掛ける。
　もちろん、人形は返事をしない。
「クリスマスの後は正月でその後も沢山楽しいことあるからな。
　期待してろよ？」
　それでも、一つ一つ期待を込めるように楽しげに刀が話を続けていく。
　そして、精巧なつくりをしたその人形のガラスの瞳と陶器の耳には、その言葉と今日の日の出来事がしっかりと焼き付いていた。

「お腹すいたー。もう朝ごはんの時間だねー」
　朝ごはんの話をしつつ、桜庭円の口からは小さなあくびが一つ。
　肩に乗ったにゃーくんも一緒に小さなあくびを一つ。
　そして、にゃーくんは自分の着ているサンタ服を見て、ついでに綺麗な朝焼けの空を見て、大きく一声上げてみた。

『サンタさん……
　うーん、にゃーは新しいタワーが欲しい！』

　純粋なにゃんこのお願いが叶えられるかは、サンタクロースのみが知っている……

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