ついに零した吐息が完全に白くなった。
クリスマスを直前に控えて日々賑わうこのシーズンに、妙なうわさが立ち始めた。
──深夜、エノコロ岬に不思議と輝く謎の大岩を持ち込んで、【黒魔術】をやっている集団がいるらしい。
「光る大岩──また、おかしな物を。神魂とやらの影響かねぇ」
その情報を、夜も更けた丁度うわさの時間帯に、何気なく情報収集の一環として、呟き眺めていた
桜崎 巴は、突如として、己の身体が思い切り浮き上がるのを感じた。
「な──! 何だい、こりゃ!」
叫ぶ言葉が最後まで声になったかどうか。
巴の姿は一瞬にして、掻き消えた──
次の瞬間。巴が己の視界に映る夜の闇と、肌に響くその外気の寒さを思い切り受け取った。
海が見える──巴は、見覚えのある景色に即座にそれがエノコロ岬だと辺りをつけた。
今の季節の外が寒いのは当然だ。だが、それにしても足が、まるで衣類を纏っていないかの様に寒い。
そして、巴が足元を確認するのと、『成功したぞー!!』とあちこちから感激の声が上がるのはほぼ同時だった。
「サンタの召喚に成功したぞー!!」
サンタである。
……正式には、もしかしたらサタンであったかも知れないが、現状では少なくとも、その姿はまごうことなきサンタである。
巴が驚きに辺りを見渡せば、人型にしか見えなかったモノは、良く見れば皆2本足で立った犬と猫の姿をしているではないか。
異様に異様が重なるこの状況に、ふと足元には薄く発光した、身長ほどあろうかという大きな岩が一つ。
その様子で、巴は自分がこの場に来たのは、諸原因──神魂の影響である事を確信した。
「あの──駄猫がっ!!」
巴の叫びが、この原因の一端を担うであろう当猫
テオドロス・バルツァに届く事はない。
「さあ、皆! 『クリスマスの人間風習』に則ってぇーー!」
3~4頭身の2本足で立ち歩く『いぬ』と『ねこ』達に一気に周囲を包囲され、巴の頭の中で如何に無事に逃げおおせるかという思考が、一気に巡り始めた瞬間──
「踏んでください、サンタ様!!」
「……は!?」
人間が思考をやめたら、それは既に人間ではない──
そんな聡明かつ鮮烈な巴でも、流石に周りのいぬねこが、一斉に土下座してそう叫んだ時には、1秒程度ではあるが流石に思考の停止を余儀なくされた──
「つまり、あんた達は『噂で聞いたクリスマスパーティ』を自分の国でやる為に、この世界に勉強に来たと。そういうことかい?」
「はいっ!
あ、サンタ様! これも恒例の貢ぎ物です!!」
「ちがぁーう!!」
話を聞けば、どうやら2足歩行する『いぬ』と『ねこ』たちは、地元の犬と猫達の協力も得て、『噂に聞いたクリスマス』や『クリスマスに関する雑誌』からその知識を得ようとして失敗したもよう。
一体、どんな話を聞きどんな雑誌を読んだのか。
そして、誤解しているいぬねこの余りの多さに、巴は一人では対処し切れないとため息をついて、ねこったーにツイートを投下した。
『【急募】クリスマスが分かるヤツ。
【条件】犬と猫が二本足で立ってても気にしない人材』
はじめまして、大変お久しぶりで御座います。この度MSを勤めさせて頂きます冬眠と申します。
この度は、素晴らしいサンタクロースであられる桜崎 巴さんにご登場頂きました。本当に有難う御座います。
ご縁が御座いました時には、是非ご自由に行動して頂ければ幸いで御座います。
この度は、「【ハロウィン】いぬねこ合わせてハロウィンパーティ!!」と、世界観と時系列が繋がっております。ご一読頂けますと、何となく世界観が掴めますが、異世界のねこといぬが二本足で立ち、言葉を話す事に問題が御座いません方でしたら全く知らない状態でもお楽しみ頂けます。
まずは、この異様な状況からご説明させて頂きます。
これまでの状況
▼現在まで
○2本足の『いぬ』と『ねこ』が喧嘩している世界があります。
普段は姿を見せませんが、神魂影響により祭の日などは、エノコロ岬に大岩らしきものが出現し、世界が繋がってしまいます。
○喧嘩をやめたい一部のいぬとねこが、友好関係を築く為のお祭りイベントに、人間界のものを取り入れようと調査に来たが、珍情報しか集まらず、見事に失敗。
◎それが人の手により、SNSツールで拡散。
現在、いぬとねこの頭の中は、クリスマスが【全く知らない】か【間違った情報】として埋め尽くされています。
間違った情報例:
サンタは、召喚するもの。
現れたサンタには貢ぎ物をすると、来年の幸運を運んできてもらえる。
サンタに、ピンヒールで力いっぱいにじる様に踏んでもらうと幸運が訪れる。
……その他、色々……
▼場所と日時について
【場所】
場所は、エノコロ岬の先端に近い所です。大岩がありますが、今回はいぬとねこの世界には繋がっていないようです。
【日時】
クリスマス前のとある夜です。
時間は、人目の付かない午後10時。朝日が昇る頃には、いぬとねこは帰る予定のようです。
具体的に何が出来るのか?
○基本的に自由となっております。
正しいクリスマスを教えるもよし、間違ったクリスマスを教えるもよし、サンタのコスプレをして飛び込み、暴走するいぬとねこを眺めるもよし。
○それらは全て『人間の世界のクリスマスと言うイベントはこうだ!』という確信と共に、いぬとねこの世界に伝わります。
◎いぬとねこの世界では、伝えられた情報は世界史に刻まれる程の貴重なものとして扱われますのでご留意ください。
PC様の行動やお話が、そのまま『人間界のクリスマス』として認識されます。
▼『いぬ』と『ねこ』について
【ひらがな表記と漢字表記】
○今シナリオ内では4足歩行の寝子島っ子を『犬』と『猫』、他の世界から来たものを『いぬ』と『ねこ』と記載しております。
【外見・数】
○上記の参照シナリオでは、いぬもねこも頭にくり抜きカボチャを被っていましたが、今回はそれが無い為、2足歩行ではあるものの、きちんといぬとねこかの区別がつきます。
○いぬとねこが同数、6匹ずつ合わせて12匹来ています。
人目が無い為、堂々と2本足、語尾にはそれぞれ「ニャ」「ワン」がつきます。
模様も種類も様々です。
【その他】
○他の世界のいぬねこには、一番偉い猫として『猫の王さま』、一番偉い犬として『犬のしょうぐん(別名多数)』という存在がいますが、
今回のいぬとねこは、それとは別に『いぬとねこの中立共存を目指す会』という団体に所属しており、自分達のトップには若干反意的です。
それでは、他の世界から来た『いぬ』と『ねこ』の世界の記録に、どんなクリスマスの情報が載るのか、心より楽しみにしております。