トワイライト・フェアリーテイル　―鳥篭の姫―｜リアクション

トワイライト・フェアリーテイル　―鳥篭の姫―

序：襲撃の中で

（何事っ？！）
　先ほどまで剣術の稽古に励んでいた御剣刀は、見たこともない立派な庭に面食らった。だが、物々しい雰囲気と黒い衣服の刺客の姿に「あ、以前にもこんな事ありましたね……」と妙に合点がいく。そして、聞こえてきた会話の内容に、戦闘意欲がふつふつと湧き上がってきた。
（ふんっ、見合いを断られたら殺すとか駄目すぎるだろ。……ここは力づくでもお帰り願おうかっ）
　刀は辺りを見渡し出現した刺客へと木刀を向ける。僅かに睨み合っていると刀は自分の影から殺気が迫るのを感じ、そこへと木刀をつきたてる。同時に上がる悲鳴。浮かび上がる人の姿。それに、数名の刺客が戦いた。
「俺には通じなかったようだな」
　刀の言葉を聞いて悟ったのだろう。彼らは風のような速さで迫り、刀は迎え撃った。そうしながらも、ちらり、と座敷牢の方を見る。
（『女の子を守るのは男の役目』って死んだ祖父さんが言ってたんだ、だから俺は……）
　そこに閉じこもってしまった姫、華夜。彼女を守ろうと木刀を振いながらどこか憂いを帯びた顔をした黒髪の青年……珊夜を見る。恐らく、彼が朱雀族の王なのだろう。
（ま、お兄さんも心配しているようだし、家族居なくなるの寂しいもんな）
　僅かに微笑んだ彼の瞳が、すっ、と変わる。ただの少年から、剣士のものへ。彼は静かに刺客を睨みつけると、静かに言い放った。
「いい機会だ、お前ら俺の剣の糧になれ」

　龍目豪は、八神修と彼の愛犬、柴犬のカーキーとともに珊夜と物陰に隠れつつも進言していた。
「あんたに何かあったらこの国はどうなる。華夜は俺たちに任せて、まず手勢を！」
「貴方の負傷は、国内政治的にも拙い。避難していただきたい」
　豪と修に言われ、珊夜は「ありがとう」と頷く。すると、物陰に隠れていたサキリ・デイジーカッターが一礼し、珊夜を抱える。彼には短距離ではあるが瞬間移動が可能なろっこん『斬空舞踏』がある。
　サキリがろっこんを使う前に、と修は珊夜へ医師、長弓、食事の手配を依頼した。そして、弓はサキリか兵士に持たせて欲しいとも。珊夜が１つ頷くと。辺りを警戒していた豪がサキリを促す。
「珊夜さんを」
「わかってるよっ」
　サキリは僅かに笑って、黒曜石のナイフを握りろっこんを発動させる。同時に飛んでくる刃物。どうやら紙一重で移動できたらしい。彼は比較的安全だろうとどこか中華風な印象を持つ渡り廊下を何度かの転移を経て超え、館の入り口までくると１人の若者と出くわした。淡い茶色の髪と赤い瞳の青年で、背中には赤い翼が生えていた。
「！　陛下、何事ですかっ」
「紅緒、華夜を狙った刺客が現れた。異世界からの客人が今応戦してくれている。今は、彼らへ加勢してくれ」
　紅緒と呼ばれた青年に、珊夜はサキリを紹介した上で願う。紅緒は「御意」と返事をし、サキリへ黙礼すると風のように駆けて行った。サキリが珊夜へ援軍を頼むと、彼は手配する、と約束してくれた。
「私はここまででいい。サキリ殿、感謝する」
「気を付けてね」
　珊夜はサキリに礼を述べるとあわてて駆け寄る使用人に指示を下す。サキリは再び戦場に出ると、襲いかかってきた相手へ黒曜石のナイフで切りつける。
「おいっ、白虎族の戦士がいるぞ！　気を付けろ！」
　刺客達の様子を不思議に思いながらも、サキリは身構える。その時、彼は唸り声をあげて飛ぶ岩を見た。

　サキリが発つのを見送った豪は「ファイトー！」と掛け声をあげながら岩を持ち上げた。彼のろっこん『軽いぜ！』はこうする事で持った物の重さを０に出来る。
　刺客達は豪の力を測りかねていたようだが、これをみて戦いていた。
「月の世界じゃ結婚を断られたら殺すのが流儀なのか？　お前たちの主はよっぽどモテないんだな」
「なりふり構っていられぬ事情が、こちらにはあるのだよ」
　と刺客の一人が言う。交渉の余地がなさそうだ、と悟る豪の後ろでは修が敵を払った刀の手を借りて屋根に上り、戦場の全体を把握しようとしていた。カーキーが吠えて敵を牽制し、修が昇り終えると刀は再び敵と対峙する。
「一国の姫にこんなことをして、戦争にならねえのか？　お前たちの正体は……」
　豪がそういう前に殺気が迫るのを感じた。咄嗟に横へ飛び退くと背後から影をとおって刺客が襲いかかってくる。岩を投げた豪は懐中電灯を手に影を照らし、再び潜ろうとした刺客を止めた。
「我らが主には時間がないのだっ」
　刺客が叫びながら棒手裏剣を投げる。それをどうにか払うと気配のしたほうへと懐中電灯で照らす。そうしながらも、２、３人の刺客に蛍光塗料が付いている事に気が付いた。

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