トワイライト・フェアリーテイル　―鳥篭の姫―｜リアクション

トワイライト・フェアリーテイル　―鳥篭の姫―

　最初から、刺客達は己の命など省みていなかった。彼らは華夜を殺すか連れ去るかするしかここを生きて帰るつもりは無いらしい。
「異世界の皆さま方。この月に生きる者は、命がけで恋をするのです」
　不意に、声を上げる者がいた。刺客をチャクラムで切りつけた紅緒である。その言葉に僅かながら寝子島の若者たちは目を見開く。
（それが、下がれない理由なのか？）
　不意に修の脳裏に疑問が湧く。だが、今はこの状況を突破しなくてはならない。彼は僅かな焦りを覚えていた。
（こんなことって……）
　美咲紀は予測していなかった事態に息をのみ、ちらり、と座敷牢を見る。幸い刺客たちは屋根の上のサキリや周囲の兵士たちによって守られている。だが、戦っている者たちは傷を負って居た。特に酷い傷を負っているのは蛇那伊と刀である。彼女が「治療しなくちゃ」と飛び出そうとすると、兵士の1人が引き止める。美咲紀は歯を食いしばって戦いの行方を見つめていた。

　座敷牢前では、紫によって説得が行われていた。早く華夜に炎を食べさせたい、と思っているのもあるが扉越しに華夜の弱った呼吸が僅かに聞こえた気がしたからだ。たしかに、今、外に出すのは危ないだろうが、彼女と話しておくに越した事は無い。
「ホントは、落ち着いてからの方がいいとおもったんだけど」
「今は僕らで警戒して紫さんを守ろう」
　夏夜とねむるは紫を庇うように立ち、周囲を警戒する。紫は2人に背を預け、軽く名乗ると華夜へと声をかけた。
「１つ、聞いておきたい事があるの。何故、貴女は珊夜さんと喧嘩したの？」
「そうそう。華夜さんは何でお兄さんに怒ってるのかな？　よかったらねむるさんにも聞かせてよ」
　ねむるも似たような事を聞きたかったらしく、やんわりと問いかける。すると、華夜は、どこか悲しげな声で答え始めた。
「……見合いをするように、言ってきたからですわ。相手は、どうせまた面白みの無い殿方でしょう」
　と、深くため息を吐く華夜。紫は僅かに息を飲み、華夜の言葉を待った。それだけではないように思えるのだ。
「私は、恋がしたい。恋した人と結ばれたいと思うのは、女としての本能でしょう？　けれど、兄は……『結婚してからでも相手を愛せるなら幸せになれる』と言うのよ。本当にそうかしら？」
　その言葉を聞き、紫たちは妙に嫌な予感を覚えていた。紅緒が言った言葉が妙に引っかかる。
「私は、ただ子孫を残すためだけの結婚なんて嫌なのよ。恋した相手と結ばれたい……。たとえそれが、命がけだとしても」
「どういう、事？！」
　思わずねむるがそう問いかけ、夏夜が目を細める。華夜は彼の声にどこか悲しげに答えた。
「そのままの意味ですわ」
　つまりは、恋をする事が命に関わる、という事だろうか？　３人は顔を見合わせ、僅かに息を飲む。なぜだろうか、胸の奥に冷たいなにかを覚えた。

　紫たちが説得を始めている間に、豪は座敷牢へと駆けつける。その背中を狙う刺客の前にろっこんを使ったサキリが現れ、黒曜石のナイフで切りつける。修が矢を放ち、蛇那伊が不意打ちを払いカウンターの要領で掌底を決める。刀が木刀で叩き伏せ、紅緒と援軍が刺客を捕縛していく。
「猿轡もしっかり噛ませて」
　修の指示により捕まった刺客全員猿轡をされた状態で兵士達に連行された。落ち着いたところで座敷牢の守りについていた兵士達も下がり、美咲紀が花を手に駆けつける。
「わわっ！　皆さん大丈夫ですか？！」
　美咲紀がそう焦るのも無理は無い。蛇那伊と刀をはじめ、戦いに出たものは大小さまざまな傷を負っていたからだ。彼女はすぐに舞い、ろっこん『舞花の祈り』を発動させた。
　傷は少し癒えた。だが、まだ華夜の説得が残っている。
「……まだ終わっていない。行かなくちゃ」
　サキリの言葉に、全員が頷く。修は周囲を警戒しつつも珊夜を連れてきたほうがいいと判断し、護衛として刀と蛇那伊を向かわせた。

このページにイラストを設定する