トワイライト・フェアリーテイル　―鳥篭の姫―｜リアクション

トワイライト・フェアリーテイル　―鳥篭の姫―

「はっ！」
　迫りくる攻撃をタオルではらった刀は、注意深く相手を探りつつ木刀を振う。視線、構え、肩やつま先の動き、重心のバランスや気配から動きを読み取り、それに対応できるよう間合いと構えを調整しながら相手を落ち着いて倒していけば高揚感が徐々に落ち着いて行くように思えた。
　頭で考えていては追い付かない。これらは経験と体に染みついた感覚で行っているのだ。
（ふん、人数を増やしてきたか）
　１人では対処できない、と考えたのか、数名で襲いかかってくる刺客。だが、刀の脳裏に撃鉄が『ガチンッ！』と音を立てて落ちたとき、刀は疾風と化していた。彼のろっこん『加速』を発動させたのだ。
　加速する精神とは対称的にゆっくりと動く世界。刀は１人走り抜けながら呟く。
「だからさ、この世界に立てないおまえ等に勝ち目はねえんだよ」
　普段ならば、それだけで全て終わる。だが、この日は違った。
「果たして？」
　ガチィッ、と鈍い音がして木刀が止められる。刺客の一人が疾風となる刀の一撃を受け止めたのだ。だが、刀は焦らず一撃を見舞う。その刺客は足先だけ影に溶け込ませ、地表を滑る事で刀に追い付いたのだ。
「やるじゃねぇか」
「我々を、舐めるな青龍族の剣士よ」
　刺客が叫び一撃を見舞う。だが、がくん、と速度が落ち、刀は紙一重でさけると更に速度を上げて厳しい一撃を見舞った。良く見れば、豪が懐中電灯で周囲を照らしてくれていたのだ。
「凄いですっ！」
　声がし、振り返ると隠れるように進んでいた美咲紀が歓声を上げていた。そして、座敷牢周辺には兵士が現れ、取り囲むように動いている。また、数名は新たに刺客が来ぬよう警戒をしてくれているようにも見えた。美咲紀自身も周囲を見渡し、敵の襲来を知らせたり、石を投げて気を逸らしたりと頑張ってここまで来ており、兵士達の信頼を得ていた。
　その事を何となく感じつつ、刀は優しく笑う。
「椿も気をつけろよ」
「はいっ！　御剣さんも！」
　美咲紀はそういうと物陰へと身を隠し、刀は再び木刀を握った。

（数は減ったか？）
　刺客は説得できないと判断した豪は、懐中電灯をつかって刺客の影を照らす。そうすれば溶け込めず、不意打ちを避ける事が出来る。
「けっこうやるわね。『彼』とは違う戦いづらさがあるかも」
　屋根の上で戦う蛇那伊が熱気を避けながら身を落とす。低い姿勢から放たれた蹴りで落とされた刺客はそのまま影に溶け込もうとするが、懐中電灯に照らされた為受け身を取らざる負えなくなった。
　サキリと蛇那伊が上から警戒する。修もまた弓矢で応戦すれば、刺客は倒れて行く。そして、修と背中合わせの状態で紅緒がチャクラムを飛ばし、僅かに焦った表情で刺客と渡り合っていた。
「少し落ち着きなさいな」
「華夜様を早くお助けしなければなりませぬ」
　蛇那伊の言葉に紅緒はそういい、ふわり、と虚空に舞う。そしてサキリに襲い掛かろうとした刺客を蹴り飛ばした。
「なかなかやるね」
　ろっこんをつかおうと思っていたサキリがそう褒めれば、紅緒は僅かに笑って会釈。そうしながら今度はサキリと背中合わせになる。
　修がちらり、と周囲を見渡すと、豪が座敷牢へ走り、岩を手に威嚇すれば刺客もたじろぐ。彼が怪力だと思った者たちは、彼に攻撃される事を避けようとしていた。
　遠くから援軍も来ている。もうしばらくすれば完全に包囲できるだろう。
（（頃合いかな））
　サキリと修は一息つき、互いにアイコンタクト。頷き合うとサキリは思いっきり息を吸い込んだ。
「もう、諦めろ！」
　大きめの声でそう言えば、乱戦していた者たちが動きを止める。修は一呼吸置いて、静かに言い放つ。
「主人の品格を墜とすな。部下なら真の意味で忠誠を尽くせ」
「主人への忠誠心が高いのは尊敬するけど、これ以上戦いを続けた所でお互いに死人が出るだけだよ。この辺が引き際って奴じゃないかい？」
　修とサキリが、刺客たちにそう呼びかける。すると、喧騒が嘘のように消え刺客達は動きをやめた。だが、動ける者たちは皆、その言葉を否定しているように思えた。
「今なら不問に出来る。兵を退けっ！」
「……できませぬ。我らが主は、今更許されようと思っておりませぬよ」
　修の言葉を切って捨てたのは、１人の刺客だった。彼はそう言うと、さっ、と手で合図をする。数名が戦闘不能になっているものの、まだ動ける者たちはその合図と共に豪たちへと襲いかかる。
「くっ……倒すよりは、捕らえてぇってのに……！」
「仕方がないわね」
　豪が苦しそうにそう言えば蛇那伊がすっ、と屋根から下りて豪の背を守る。修が弓を放ち、刀が木刀で立ちまわればそこは悲しき舞台となる。