真夜中スノーホワイト｜リアクション

真夜中スノーホワイト

●策略と謀略、暗躍の世界で

　白雪姫の住む城には、隣国に誇る医師団がいた。王妃の信頼も厚いその医師団の長の名前はヤガミ……八神修である。だが、そんな確固たる地位を誇る彼には秘密があった。
　隣国の間者……簡単に言えばスパイである。ヤガミの仕える主人は王妃ではなく、隣国の王子なのだ。
　王子の命はただ一つ。『隣国に不穏な動きがある、それに乗じて平和的に国家を統合する。隣国に潜り込み、好機を待ち我が国に利益があるように動け』というものだ。
　その命令により、ヤガミは医師団へ潜り込み、その持ち前の頭脳と社交性によって今の地位を得た。今や王妃にとってはヤガミは魔法の鏡のように頼りになる存在になっていた。
　ある日、ヤガミは王妃に内密の話があると言われ王妃の私室へと訪れていた。

「お呼びでしょうか、王妃様」
「よくぞ参った、ヤガミよ。お主の今までの働きをを見込んで頼みがある」
「なんなりと、王妃様」
「白雪姫を……殺して欲しいのだ」

　頭を下げたままのヤガミは好機が訪れたなと思いながら、それを表情には出さず顔を上げる。そして短く、

「王妃様の御心のままに」

　と、答えて退室したのだった。そこからはヤガミの知恵のみせどころ。
　白雪姫を警戒させることなく絞め殺してしまえという王妃の命令には、美しい刺繍が施されたリボンを用意し、人の肌に影響が出ない程度の薄い塩酸を塗って、首を絞められても白雪姫が動いて逃げようとすれば崩れ落ちるように細工を施しました。
　それにより、白雪姫は助けを呼ぶことができて難を逃れたのです。
　次に王妃は、毒の櫛を使いそれで白雪姫を殺してしまえという命令を下しました。それには毒の調合を少し変えて麻酔薬にし、美しい細工が施された櫛に塗って、白雪姫がその櫛によって倒れてもやがて目が覚めるように細工をしました。
　けれど、そんなことばかり続いてしまっては王妃も業を煮やすというもので、とうとうヤガミに毒林檎を作って白雪姫に食べさせて毒殺をするように命じたのです。

「まったく、どこまでも執念深い人だな……仕方ない」

　ヤガミは王子と暗号による連絡を行い、白雪姫を仮死状態に仕立てるので自国へ運んでしまおうという計画を立てたのでした。
　果たして、その計画は上手く運びました。仮死毒を仕込んだ林檎を食べた白雪姫は仮死状態になり、ヤガミは王妃に死んだと報告したのです。
　そのあとは、毒殺が露呈しては王妃の評判に関わるので山向こうにひっそりと埋葬すると言って運べば計画は完璧です。……そのはずだったのだけれど。
　執念深く、用心深い王妃は棺を運び入れた場所にまで現れ、今度こそ生き返らぬようにとヤガミが調合した仮死毒を更に眠ったままの白雪姫の口へと流し込んだのです。
　仮死毒とはいえ、摂取量を大きく超えては命に関わります。けれど、ヤガミも負けてはいません、解毒薬を手に馬を走らせ白雪姫の命を救うのでした。
　回復した白雪姫は、毎日顔を見せてくれる王子に恋をしているようで、ヤガミと王子の王妃を失脚させ国家の実権を我が国の物にしようという画策には気が付いていない様子。

「王子は悪いお方ですね」
「こう見えても、白雪姫を愛しているよ？　私なりにね。それよりも、王妃の方はどうなっている？」
「白雪様を殺そうとしたことが世間に露呈し、塔で幽閉されております。白雪様との婚姻と王位継承が済んだら、塔で臥せってらっしゃる王妃様は薬石の功なく眠りにつかれるでしょう」
「ふふ、相変わらず頼もしいな、ヤガミ」

　その言葉に深く頭を垂れて、ヤガミは楽しそうに微笑んだ。
　……そうして、白雪姫は王子様と幸せに暮らし、ヤガミはその傍らで才能を遺憾なく発揮し、王子と共に自国の領土を拡げていくのでした。

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