真夜中スノーホワイト｜リアクション

真夜中スノーホワイト

●白雪姫は掛け算がお好き

　なんだかんだあって、白雪姫は難を逃れて森の小人たちの家で何不自由なく、それはそれは楽しく暮らしておりました。

「まさにここは天国です……！！　命を狙われてもお釣りがくるというものです！」

　そう瞳をキラキラさせて言うのは椿美咲紀、掛け算の得意な白雪姫である。
　命からがら逃げ出した先は深い森で、もうダメだと思ったその時に見つけたのが現在お世話になっているこのお家。最初に誰かいませんか、とそっと窓を覗いたのが彼女の天国の始まりだった。
　７人の小人は小人ではなく、普通サイズの美形に美少年、所謂イケメン揃い。背の高い細マッチョ系から可愛い少年風まで、各種色々取り揃えておりますなラインナップに美咲紀は思わず天を仰ぐ。――――神様ありがとう！！
　多分、現在スマフォで遊んでいる某近接武器擬人化男士ゲームのせいなのは間違いない。キャラデザ的にも間違いないのだ。大事な事なので二回は言いたい、そんな感じであった。

「スパダリ系に褐色無愛想とおどおど美少年は外せませんよね。あとちょい悪風なおじ様と生真面目系美青年、俺様系と卑屈系……完璧な布陣じゃないですか！？」

　誰に言うでもなく美咲紀は語る。壁に向かってだって構わない、この思いをぶつけたい、それが掛け算好きというものだ。
　美咲紀がそう思うのも仕方ないのだ、何せこの７人の小人は見ていて飽きない。飽きるどころか叫びたくなるくらいなのだ。森の木ひとつ切る相談をするのでも、顔が近い。そんなに顔を近付けなくてもいいのでは？　そして何故頬を赤らめる？　もう一つ言えばその手は何故相手の腰に置かれているのか。

「色々とスキンシップが多いのですよ……！」

　美咲紀が黒いオーラが滲み出るような笑みを浮かべてフフフと笑っている。
　暫くの間、じっくりと観察していたら絡みの偏りやその反応の差もわかってくるというもの。あっと言う間に美咲紀は誰と誰が仲良しかも把握していた。掛け算好き、恐るべし。

「水汲みとか、必ずその組み合わせで行くのですよ……しかも、時々帰ってくるのがやけに遅かったりしますしね。帰ってくると妙に艶々していますしね……何をしているのでしょうかね？」

　見たい、もうほんと見たさしかない。これが見れるのであれば毒林檎の一つや二つ食べると言うのに……！！

「それは本当かえ？」
「本当ですよ！　掛け算好きに二言はないのです！　あれ、私声に出してました？　それに……えっと？　あなたはどなたでしょう？」
「私のことなどはどうでもいいんだよ、お嬢ちゃん。小人たちが水汲みに行って何してるのかが見れればこの林檎を食べるんじゃろ？」
「はい！　それはもう！」
「ならば見せてやろう」

　美咲紀は突如現れた怪しい老婆が差し出した手鏡を覗き見る。と、そこには水汲みに行った２人の小人の姿が映っていた。息を飲んで、美咲紀は手鏡を食い入るように見つめている。
　二人は仲良く水を汲み、帰ろうとして……。

「抱き合った！　抱き合いましたよ！！　そのまま見つめ合って顔が近付いて……あぁ～ありがとう神様、ありがとうお婆さん……！！」

　そう言うと美咲紀は笑顔で林檎を食べ――――意識を失ったのであった。
　掛け算の為に命を賭けた白雪姫、ここに眠る……なんてテロップを流したくなるけれど、王子様が現れるのがお約束というもの。棺に眠る白雪姫、そしてそれを取り囲むようにして悲しみに暮れる小人たち……。そして現れる王子様、なのだが。
　なんということでしょう、王子様は小人の１人である少年に目を奪われているではありませんか！　これが掛け算的フォーリン・ラブ、そのまま白雪姫に施される筈だった目覚めのキスは奇数で一人余っていた小人さんに……！
　その瞬間、掛け算シーンを見逃すまいと自力で白雪姫は目を覚ましたではありませんか！

「あ、私のことはモブ女でいいです、ですからどうぞそのまま続けて、どうぞ」

　最後までブレない美咲紀なのでありました。

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