冬眠前にひと遊び｜リアクション

冬眠前にひと遊び

●山の奥で

「見つからんな～」
　修と清一郎はしばらく山道を歩いていたが、狼どころか他の動物も姿を見せない。
　清一郎がぼやく。
「八神ならニホンオオカミも寄ってくるかと思っとったけどな」　
「俺の動物好き好かれ体質も万能じゃない。いなければ寄ってきようがないし、俺の意志ではどうにも……あ、あれは」
　双眼鏡であたりを見回していた修が動きを止める。
「なんや、見つけたか！」
「犬かもしれないが……向うの森の奥に」
　慎重に断言を避けて指差しつつ、修はこんなところに野犬はいないだろう、と感じていた。
「よっしゃ、行くで」　
　言うが早いか清一郎が駆け出す。
「待て、走らないほうがいい、……あっ」
　修は確かに見た。
　双眼鏡のレンズの奥で、銀色の毛の狼らしき生き物が身を翻し、森の奥へと駆けて行くのを。
　残念ながら寄ってきてくれる気はないようだ。
　修は弧高の獣の姿をしっかり脳裏に焼き付けた。
「俺にも見してや！」
　清一郎は双眼鏡を修からもぎ取り覗き込んだが、しばらくして首を振った。
「……あかんな」
「……見失ったか」
　二人は、狼が去ったと思しき森のほうへ歩き出した。　
　
「これは……」
　森の中、修と清一郎は気配を感じたと思うと囲まれていた。
『なんかいいにおいがするおにいさんがきた』
『いっしょにあそぼう』
　かくれんぼをしていた動物たちが出てきてしまった。
「これじゃかくれんぼにならないじゃない」
　呆れたように碧南が言うが、どこからともなくリスとヤマネたちも現れ修に登りだす。
「可愛いなあ。今餌をあげるから、ちょ、ちょっと待ってくれ」
　そう言いながら修はリスを手に乗せ愛撫する。
「はいはい倉庫の出番やな」
　清一郎がろっこんでえさを取り出したところに、天吏と時子が追いついてきた。
「木の実ならこちらにもありますよ」　　　　
　時子はポケットから先ほど拾った木の実を取り出し、リスとヤマネに渡してあげた。
「ニホンオオカミはおらんようやな……」
　清一郎は残念そうに言う。
「オオカミ？　こんなとこにいるわけないじゃないですかー。私だって見たことありませんよ」
　梢が手際よく餌を動物たちに分けながら言う。
「そやけどさっき修が見たで」
「なんですってー！　聞き捨てなりませんね。見間違えじゃないんですか？」
　梢が食いついてきた。
「見たと思う。証拠はないし、公にするつもりは無いが。保護した種より絶滅させた種の方が圧倒的に多い動物が、この星には居るからな……」
　しみじみと修が言った。　
「……あとで場所を教えてくださいー」
「ああ。猫や犬の国もあるんだし、『狼の国』がある可能性だってあるよな」
　数々の不思議を体験してきた修は言う。
「メルヘンやな。ま、実際クマもめったに会えんけどな。こら、ちょっと待てや」
　清一郎も動物に囲まれ服を引っ張られたり頭に乗られたりしている。
「ちゃんと食べて貰って安眠して貰おう。麓の人のためにもね」
　修は寄ってきた大きな熊をデジカメで撮影する。
「撫でてもいいかな？」
『ああ、いいぞ』
　許可をもらって撫で撫でし、ぎゅうっとハグする。
（熊の毛皮はしょっちゅう見てるが、やはり本物は違うな）

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