冬眠前にひと遊び｜リアクション

冬眠前にひと遊び

●アライグマと、みんな集合

「このへんでしょうか」
　声を頼りに丸美と碧南、梢は動物のいそうな森へやってきた。
「ねぇ、さっき呼んでくれたのだぁれ？　冬眠する子もしない子も、皆おいでよぉ」
　丸美が声かけると、動物たちが顔を出した。リス、ヤマネ、クマ……そして。
『ぼくだよ』
　愛嬌のある、目の周りが黒い動物が進み出る。
「タヌキさんだったのね」
　丸美と碧南は、タヌキだ、と思った。
　しかし梢の反応は違った。
「っと、タヌキの顔してる貴方！　あなた、アライグマでしょー！」
「えっ、そうなの？」
　碧南が驚く。
『そう、ぼくはアライグマ。よくタヌキとまちがわれるんだ』
「ま、種名とかは何でもいいんですけどもー」
　丸美と碧南は梢に賞賛の目を向けるが、当の梢は考え込んでいた。
（かわいいけど、特定外来生物なんですよね。駆除対象なんですけど、うーん……報告するか悩ましいですねー。神奈川県、自然繁殖確認されてますしねー）
　外来生物は単に海外起源の外来種の生物ということだが、『特定』がつくと面倒になる。
　生態系、人の生命・身体、農林水産業へ被害を及ぼすもの、及ぼす恐れがあるとして、飼育することや野外へ放つことが禁じられているのだ。
（この子にそれを言って怯えさせるのも可哀想ですし……会話した以上、報告するのも鬼ですし……でも生態保護の観点からは……）

　梢が悩んでいるうちに、丸美は動物たちに声をかけていた。
「眠りたいのに眠れないのって、しんどいよねぇ。眠たくなるまで一緒に遊ぼ？　冬眠する子もしない子も、皆おいでよぉ」
「なかなか眠れないって大変よね。ここは思いっきり遊びまくろうか？」　　
　碧南もしゃがみこんで目線を低くし、そう話しかける。
　動物たちは二人の元に集まってきた。
「皆で遊んで、ちょっと疲れて、ぽかぽかに暖まったら、きっと音とか声なんか気にならないくらい眠くなるよ」
　丸美がのんびりと言い。
「何して遊ぼうかな……鬼ごっこはどう？　これなら遊び道具とかなくてもできるし、それに充分に身体も温まって、眠くなるかもしれないし」
　碧南がそう言うと、動物たちは頷いた。
『うん、いいよ～』
『それじゃ、おねえさんがおにね』
　言うが早いか動物たちは走り出す。
「そうだね、鬼ごっこしよっか……って、あはは、みんな早いなぁ。勝負にならないねぇ」
　取り残されて苦笑する丸美に、
「それじゃ三人で追いかけよう」
　そう言って碧南は走り出す。
（山の中では地の利に加えて動物特有の嗅覚とかもあるので人間には不利かもしれないけど、楽しければそれでいいや）
　と思っている。　
「これは、一人で答えは出せない事ですよね……って、いつのまに鬼ごっこになってるんですかー！　私も追いかけますよ」
　考え込んでいた梢もアライグマを追って走り出す。
「あれです！　私は何も見てない！　アライグマなんか見てないですよー！　あなたはタヌキです！」
　きょとんとしたアライグマに、梢は呼びかける。
「……ここで生まれてきて生きてるだけの子に人間のルールを押し付けるのは、何様って気持ちもあるのですけど！　でも、やっぱり人間のルールを教えてあげたほうがいいですよね」
（もし言うことを聞いてくれたら、その分の被害は幾らかは減らせますし……集団としての人間と敵対しないことは、この子の為にもなると思うんです）
「できればこの島から出ないで下さいね！　あと……畑！　人間が植物を育ててるんですけど、それを食べちゃわないで下さい！」
　梢の頭には、畑の作物を食い荒らされて嘆くおじいちゃんの姿が浮かんでいた。
『うん……わかったよ』
　アライグマは神妙に言う。その手を梢がそっと取って言った。
「はい、つかまえましたー。あなたがオニです！」
『えええー、ずるい！』

「疲れちゃった……やっぱり、かくれんぼしない？」
　息を切らしてへたりこんだ丸美が提案する。
『うん、いいね！』
　さっき梢に捕まったアライグマ……タヌキさんが鬼となり、かくれんぼが始まった。
「……って、みんな隠れるの上手だねぇ。さすがだねぇ。私も頑張って隠れなきゃ」
　丸美は落ち葉に潜って丸くなる。
　思ったより温かくて、なんだか眠くなってきた……

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