冬眠前にひと遊び｜リアクション

冬眠前にひと遊び

●不思議な声

　不思議な声を聞いたのは岡野丸美だけではなかった。

　小学二年生の一原みとも、星ヶ丘の自宅でその声を聞いていた。
『ねむれないケロ……とうみんしなきゃならないのにケロ』
「えっ、もしかしてカエルさん？　どこにいるの？」
　カエルから事情を聞いたみとはさっそく九夜山へ行く準備を始めた。
「お気に入りのかえるさんリュックに、カエルずかんでしょ？　おゆのと、のみもののすいとうと、おやつ、ハンカチとティッシュ」
　ちなみにおやつは、自分のお菓子とミルワームを入れた缶だ。
　みるみるうちにかえるさんリュックはいっぱいになった。
「ぱくぱく食べさせておなかいっぱいのカエルさんと一しょに、お山にお出かけっ。あっ、マフラーと手ぶくろもわすれちゃだめ」
　みとは元気に飛び出していった。
「よいしょ、声がするのはこっちかな？カエルさーん、今行くよー」

　
　九夜山に近い猫鳴館で本を読んでいた綾辻綾花も、声を聞いた。
『たいくつだよー、だれかあそんでよー。おなかもすいたよー』
『困ったわね……眠れないし、食べ物を探しに行きましょうか』
　話を聞いているとどうやら親子のようだ。
「いったい誰なんでしょう……」
　首をひねりつつ、面倒見のいい綾花は、導かれるようにコートを着て声の聞こえる山へと向かった。
　途中でカエルさんリュックをしょった女の子に追いついた。
「ひょっとしてあなたも声を聞いたんですか？」
「おねえちゃんもカエルさんの声きいたの？」
「カエルさんかどうかはわかりませんが……大人の声と子供っぽい声です」
「それじゃ、いっしょにさがしにいかない？」
　みとと綾花は一緒に声のするほうへ向かうことにした。

　無口で無表情な眼帯少女の大天使天吏は、シーサイドタウンの自宅でその声を聞いた。
「……まあ、大変ね」
　原因を調査したい、と考えた天吏は支度を始めた。
　天吏は人間にはほとんど興味を示さず冷徹な態度を取る。
　だが猫以外の動物に対しては別だ。
　鳥を一番愛している天吏だが、猫以外の動物も鳥の次に愛している。
（私と動物さんの時間。楽しく過ごせたらいいな）
　そんなことを思いながら、天吏は足取り軽く出かけていった。　

　　

このページにイラストを設定する