ブラームスはお好き？｜リアクション

ブラームスはお好き？

「真瞭さん。子供たちには、少々遅い時間になったわ。久しぶりに、貴女のヴァイオリンを生で聴かせていだだけるかしら？」
　深林真瞭は、花咲千鶴子の頼みを快く引き受けた。
「私でよければ……久しぶりに、のびのびと楽器を弾きたかったんです。私のお気に入りの、フランクを弾きましょう」
「フランクのヴァイオリン・ソナタですか？」
　エリューシア・セリアンが反応した。
「初見でよろしければ、是非伴奏をさせてください。高名な音楽家の方と合奏できる機会は、そうありませんもの」
「ありがとう、とても嬉しいわ！」
　申し出を了承する真瞭の表情は、全く屈託がない。

　セザール・フランク作曲『ヴァイオリン・ソナタ』第２楽章、ニ短調。
　激情的なピアノの早回しで幕を開け、やがて張り詰めたヴァイオリンの旋律が重なる。内面から際限なく湧き上がってくる熱情を表しているかのように、聴く者の心を掴んで片時たりとも離すことがない。
　中間部、音楽は歩みを遅くして沈み込む。だが、ピアニッシモになっても二人の音は吸引力を失わない。やがて、曲は再び盛り上がりを見せる。聴く者に緊張を強いる要所要所のシンコペーション。激しく、それでいて決して乱暴な音にならない高音域。情熱的な真瞭の性格が余すところなく活かされた演奏だった。

　この日一番の拍手が、真瞭に送られた。何にも代えられない価値のあるひと時を過ごせた感謝の念を込めて、真瞭は聴衆に一礼した。

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