ブラームスはお好き？｜リアクション

ブラームスはお好き？

「オペラもクラシックの仲間です。お許しが得られるならば、『オペラ座の怪人』の『音楽の天使』を歌わせていただけたらと。純粋なクラシックというのであれば、『椿姫』や『カルメン』でも良いのですが」
　エリューシア・セリアンの申し出を、花咲夫妻は快諾した。『音楽の天使』は、彼女がマタタビック演劇フェスティバルの『2つのF』に出演した際に歌った曲だ。
　前に進み出たエリューシアは、大舞台に立った女優のように凛としていた。
「演劇フェスティバルで主演女優賞をいただけたことで、自分はやはり音楽や演劇に触れていきたいと強く思いました。だからこそ、この曲をまた歌いたいのです。今は両親のコンサートに特別に出演させてもらうことはあるけれど、いつか自分の力を認められて舞台に上がりたいです」
　彼女はそう挨拶して、静寂を待った。演劇フェスの日、舞台上にいたヒロイン・クリスティーヌが、寝子島に再び姿を現した。
　文字通り天上から下りてくるような透き通った歌声。弱音で優しく始まった歌は、徐々に盛り上がって情熱を帯びてくる。聴く者を癒し、心を落ち着かせる曲調は、同時に物語に出てくる醜い怪人の悲劇を際立たせる効果があった。
　体が頑強でないため、長丁場の舞台となるときつくなることが多い。それでも、基礎体力を高めるための訓練を続けている。エリューシアは、夢に向かって進み続ける決意を新たにしていた。音楽を奏でる彼女の姿は、本当に嬉しそうで、また楽しそうだった。
　歌い終えたエリューシアは、拍手を浴びながら上品に一礼した。あの日演じた才能ある女優・クリスティーヌになりきっているかのようだった。

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