オーブラジャー！　久保田美和、人生２回目のピンチ｜リアクション

オーブラジャー！　久保田美和、人生２回目のピンチ

【７】

　……時間は一時間前にさかのぼる。
　気がつけば、円がいたのは２５年前の寝子島だった。
　なんとなく美和ちゃん先生を助けなければ……ということだけはわかっていた彼女。
　新聞を見れば、誘拐犯だなんだと物騒な世の中。
　先生を助けるための道具はないかと鞄を漁っていたら、見つけたのが、オメンライダーカチドキの面だった。
「つまり、ヒーローとしてあの子達を助けろってこと……？」
　子供って得意じゃないんだけどなー。
　ボクって大人っぽいっていうかー。
　話し合わないしぃ？
　シンクロしないっていうか？
　等とわけのわからないことを言いつつも、ヒーローとして助ける……それはなんだかその……。
「格好いいかも……？」
　というわけで、しりとりしながら歩いている美和ちゃん先生を見つけた彼女は、こっそり美味しいシーンに出て行こうと待ち構えていたのだ。
　そして、そのときが来た。
「あれって……桜庭？　大きなブラって何をバカなことを……？」
　怪訝な顔をする刀。
　円はテーマソングを流していた携帯を欄干に置くと、勢い良く川に飛び込んだ。
「ぎゃあ！　寒いな！」
　しかし、今はヒーロー、グッと身を切る寒さを堪え、颯爽と竜太郎を救い出し、河原に上がった。
　そう、勢い良く飛び込んだ刀と、そして、今のところ大分後方に取り残された修には一切オイシイところは残されていなかったのだ。スマン。

「ハークション！」
　冷たい川の流れを見ながら、刀は毛布にくるまっていた。
　事情を話して、修が近所の家から毛布を借りて来てくれたのだ。
　親切な人で、その家の子供が昔着ていた子供服まで譲ってくれた。
「サイズはピッタリみたいだね。いろいろありがとう」
　円が言うと、紫色になった唇をガチガチと震わせて、修はなんか言った。
　寒さで震え過ぎて、何を言ったのかよくわからなかった。
　けど、たぶんこう言ったのだと思う。
「……お、俺が飛び込んだのはいったい……」
　凍り付いた身体を慰めるように毛布にくるまり、修は刀と肩を並べて河原に座った。
　これがオイシイところを奪われた男達の背中である。よく見ておくといい。
「……ま、とにかく、危ないことしちゃ駄目だよ？」
　そう、円が言うと竜太郎は意外なほど素直に頷いた。
「助けてくれて、ありがとう。ワタリーヌさん……」
「ワタリーヌじゃなくて、ワリタリーヌね！　何にせよ、無事で良かった」
「格好いい……」
「え？」
「すっげー……！　本物のヒーローに会えた！　あ、握手してください！」
「あ、はい……」
　完全に目を輝かせてる竜太郎。
（こういう憧れの視線って、悪くないかも……）
　面の下の円の表情が思わず緩んだ。
　それにしても、思いのほか流されてしまった。
　美和ちゃん先生の面倒を見ている碧南と朱真と、とりあえず合流しなければ。
「じゃあ、竜太郎くん、行こうか。美和ちゃん先生とこに行こう」