寝子高1年の
野菜原 ユウは、寝子島駅の前にあるベンチに腰掛けてぼーっとしていた。
この前、ここでうっかりブラジャーを拾って大変な目に遭ったことを思い出していた。
そのときは、なんと30年前の寝子島にタイムスリップしたのだ。
美和ちゃん先生の両親となるはずの2人がケンカしていたので、ちゃんと2人がくっつくように仕向けたのだ。
あのあと、どうだったんだろうなー。
美和ちゃん先生が無事にこの世界にいるってことは、うまいこと結婚して、出産して、そして子育てしたってことなんだろう。
しっかし美和ちゃん先生の子ども時代かー、あんまり想像できないな。
ちょっと危なっかしいような、ませガキのような……。
なんてことを考えていたら、ベンチに布でできた何かが置いてあることに気がついた。
なんだこれ?
と手に取りかけて……ストップ!
それはまぎれもなく、ブラジャーであった。
またか!
あっぶねえ、今回は触らなかったぜ~。ふう~。
ユウが汗をぬぐって落ち着くと、まわりがよく見える。
とことことこ。
3歳くらいだろうか、見知らぬ子どもが歩いていた。
「サイレンジャーソード! かっこいいだろー!」
子ども向けヒーロー番組『サイレンジャー』の必殺武器のことだろうが、手に持っているのは、ただの枝だった。
ぷぷ。かわいいな。オモチャ買ってもらえないんだろう、不憫な奴だぜ~。
ユウは大人?の余裕で声をかけてやった。
「かっこいいね~。最高の剣だと思うよ~」
「だろだろー!」
喜んでぶんぶん振り回す3歳児。
と、その瞬間――
サイレンジャーソードの先端はベンチからぶら下がるブラジャーに引っかかり、ふわふわっと舞って……ユウの頭に乗っかった。
「おおう……」
ビビビッと感電したかのような衝撃が走る。
目を開けると、そこはいつもの寝子島駅のように見えるが……どこか古めかしい寝子島だった。
ユウの目の前には、サイレンジャーの子とは別の子どもが立っている。
年代物のヒーロー番組の服を着た、イケメンな男の子、推定3歳。
その隣には、古めかしいプリンセスが描かれたワンピースを着た、前髪パッツン女の子。やはり3歳くらいだ。
「竜太郎くん、ママたち遅いね」
「手つないで、先に行っちゃおうよ」
ユウは(おいおい危ないだろ)と思って親を探してみるが、見当たらない。
そうしてるうちに、子どもたちの話はどんどん進む。
「竜太郎くん、どうぶつえん、ばしょわかるのー?」
「おれ、どうぶつえんわかるよ! いこういこう!」
「すっごーい! かっこいい~」
積極的でイケメンの竜太郎にすっかりメロメロの女の子は、目がハート。
ユウは焦った。
初めておつかいする様子をドキュメントする番組を見たことくらいはある。
このくらいの歳の子が、子どもだけで駅から動物園に行くなんて危険すぎる。
道に迷うだろうし、歩道やガードレールのない危険な道も多いし、当時は途中に小さな川もあったし、駅前にはバイクを盗んで暴走しようとしてる15歳の少年もいるし、ふと新聞を見ると幼児を誘拐しようした事件が発生したけど逮捕されてないとか書いてあるし、やっぱり危険すぎる。
(どこの誰か知らないけど、この子たち危ないよね?)
と思い始めたユウを尻目に、子どもたちは手をつないで駆けだした。
「竜太郎くん、走っていこう」
「いいねいいね! うんどうかいみたいだね! みわちゃん!」
久保田 美和(3歳)、危険な運動会のスタートを告げるピストルが、今、鳴り響いた……!
こんにちは。マスターの梅村です。
たぶん25年前の寝子島に来てしまいました。
(落ちてたブラジャーを触って過去に来た人が多いようですが、そうでない人もいます)
西暦で言うと1990年くらいの世界をイメージしてください。
前回は30年前の世界に来てますが、そのシナリオは読んでなくても大丈夫です。
ここに来た時点で、あなたはなんとなくガイド本文に書いてある状況を把握しています。
今はお昼です。日が暮れるころには、現在の寝子島に戻ってしまいます。
そのことも、何故かなんとなく確信を持って把握しています。
ただ、そういうことを把握してないまま、という設定でもオーケーです。アクションにそう書いてください。
ちなみに、寒いです。
天気予報では、そろそろ雪が降ります。
たぶんここで起きることが、現在の寝子島に影響します。
ほどほどに気をつけて、ほどほどに楽しく行動しましょう。
◆久保田美和の状況
久保田美和先生はこの25年前の世界では、3歳です。
ただでさえ3歳なのに、やんちゃなイケメンの竜太郎にメロメロで、ますます前後が見えていません。
美和ちゃん先生も竜太郎も、見ず知らずの大人の言うことはそうそう聞きません。
ちょっとしたことで怒り出したり、泣き出したり、ケンカしだしたり、仲直りして踊り出したり、突然走り出したり、止まって動かなくなったり、隠れんぼをはじめたり、途中の小さな川で遊び出したり、大人を見たら逃げ出したり、いっしょに遊びたがったり、怒り出したり、誘拐犯と間違えたり、とにかくめちゃくちゃだと思います。
美和ちゃん先生と竜太郎は、このままだと何らかの事件事故に巻き込まれます。
特に、一般の車やバイク、暴走族の改造バイク、非行少年の盗んだバイク、子どもを狙った誘拐犯、川で流される……などの危険が考えられます。
2人の親は、ユウのタイムスリップの影響で、時空の狭間に拘束されています。
日が暮れるころまでには元の世界に戻ってこられそうですが、今は力になりません。
参加したPCのみなさんで、どうにかしましょう。
どうにかしないと、たぶん久保田美和が消滅します。
ユウは4組の集合写真を見て、やっべ~と言ってます。また美和の顔が薄くなってきてるから。
ちなみに、美和ちゃん先生と竜太郎に関わらずに遊んでてもいいです。
いいですが、へたしたら美和ちゃん先生が消滅するか、なんらかのトラウマが残ってしまうので、お気をつけて。
では、25年前の寝子島でブラジャーを手にお待ちしてます。