夕暮れアメジスト｜リアクション

夕暮れアメジスト

●夕焼け小焼けで日が暮れて

　放課後の時間は、学生にとっては有限であり無限だ。椿美咲紀はその貴重な今日の放課後を買い物という有意義な時間に充てていた。
　シーサイドタウンにあるキャットロードの雑貨屋さんは可愛い物が多いのと比較的お求め安い値段である為、学生に人気のスポットだ。

「この猫グッズ、すごく可愛いのです！」

　お正月に向けての招き猫に一目惚れをして、美咲紀は思わず手に取ってみる。見れば見るほど、連れて帰りたくなる可愛さに、迷わず購入を決める。それから、年賀状をデコる為のお正月っぽいシールも一緒に持ってレジへと向かった。
　そろそろ年賀状も仕上げないとお正月に届かなくなってしまう。帰ったら年賀状の作製に取り掛からなくてはと思いながら、店員のありがとうございました！　を背中に受けてお店を後にした。
　一目惚れした招き猫を、帰ったらどこに飾ろうか？　なんて考えながら足取りも軽く自転車へと跨って、星ヶ丘寮へとペダルを踏み出した。
　キャットロードから星ヶ丘寮まではおおよそ２キロ程で、坂道を考慮しても寄り道をしなければ２０分もかからずに着くだろう。
　帰り道、信号に捕まって、ふっと見上げた空は夕焼けを映している。それはとても美しい色合いをしていて、美咲紀は目を奪われた。

「茜色から、暗くなる前に紫色になるんですねぇ」

　ポニーテールが風に靡いて、頬を冷たい風が撫でていく。その冷たさに首を竦めつつ、信号が青になるのを確認して前進する。前を見つつ、夕焼けが少しずつ色を変えていくのを追いかけた。
　空の青と夕焼けの赤が混じり合って、紫色になっていく様は澄んだ水に赤と青のインクを落としたようだと美咲紀は思う。そして時間が経てば、それがそのまま闇色に変わっていくのがとても幻想的なことに思えて無意識に溜息を吐いた。

「そう言えば、中学の時の先輩が……この紫色になる夕闇が私はとても好きって、言ってましたねー」

　その時に、美咲紀は夕焼け以外の色を始めて意識したのだと思う。当たり前のように青い空も、季節によってその色の見せ方を変えるし、雲の形一つ取っても、空は色々な表情を見せてくれるのだと気が付いたのだ。
　そんなことを、とりとめもなく考えながら美咲紀は自転車を漕ぐ。その速度はいつもよりややゆっくりとしていて、軽やかだ。
　星ヶ丘寮までもう少しというところで遠くに雲が出てきたのが見えて、美咲紀は明日の天気は曇り空になりそうだと感じる。もしかしたら、雪も降るかもしれない。
　帰ったら天気予報を確認しつつ、寒さが苦手なプランターや鉢植えを庭から玄関へ移動させなければ。星ヶ丘寮は、寮とは言うものの各部屋は独立した建物で、寮全体が一つの町となっている場所だ。海の側ということもあって、風は冷たい。早く帰らなければ、と自転車を漕ぐ速度を上げていく。
　どこかから、お夕飯のいい匂いがしてきて、美咲紀は今日の晩御飯は何だろう？　と考える。こんな寒い日はお鍋もいいし、シチューもいい。身体が温まるものがいいなぁと思いながら、もう一度空を見る。
　いつの間にか空には一番星が輝いていた。

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