霧の妖精のいたずら～寝子島の青空を取り戻せ！～｜リアクション

霧の妖精のいたずら～寝子島の青空を取り戻せ！～

【戦闘開始〜桜花寮〜】

　……ゆるさん！　発売日に濃霧とかありえん！
　
　ゲレンデでも使える防水加工のコートを羽織りながら、羽生碧南は内心猛っていた。

　今日は待ちに待った新作乙女ゲーム「ヘタレ乙女の恋日記」の発売日。予約開始当日に速攻で手続きしたほど楽しみにしているゲームだった。
　というのに、朝から高校すら臨時休校になるレベルの濃霧に覆われ、ほとんどの店も閉まっているらしい。確実に開いているのは公的機関とコンビニぐらいだ。
　電話でゲーム販売店に確認してみたら「本日は営業を見合わせています」と申し訳なさそうに言われてしまった。

　もしこの霧がただの自然現象だったら、羽生もがっかりしつつも我慢しただろう。
　しかし見てしまったのだ。桜花寮の前でやるせなく白い景色を眺めていたときに、身体中から霧を発生させながら歩いている女性の姿を。
　この寝子島で不思議な出来事を何度も体験しているからこそ分かった。
　あれがこの濃霧の原因だ！
　
「全く、冗談じゃないわよ！　乙女の楽しみを妨害する奴はこらしめなきゃ！」

　その場ですぐに追いかけなかったのは、今までの不思議経験からきた判断だった。
　ただでさえ「ひと」の身。下手に追いかければ致命的な反撃を受ける可能性がある。今はまだ相手が何者なのかさえ分からないのだ。
　絶対にこらしめてやる！　と思うからこそ慎重に行動しなければならない。
　羽生の意識は、すでにバスケットコートの中にいる時と同じく「戦士」になっていた。

　LEDマグライトをもって桜花寮を出ようとすると、もう一人念入りに厚着した人影が見えた。
　猫マフラーに猫帽子。ゴーグルを身につけ懐中電灯を持ち、しかも火はつけていないが松明のようなものまで手にしている。恵御納夏朝だった。
　その物々しい姿から直感した。きっと彼女もあの霧の女性を探すつもりだ。
　羽生はあいさつもそこそこに話しかけた。

「ね、恵御納さん。もしかしてこの霧の原因に心当たりある？」
「……うん。霧の妖精がいるらしいの。退治しないと霧が晴れないみたい」

　恵御納もまた羽生の姿と表情を見て、決意を感じたのだろう。率直に情報を提供してきた。「もれいび」である彼女に協力すれば、霧の妖精に対抗できるかもしれない。

「私じゃ退治する方法がないけど、探して連絡することならできると思う。協力しない？」
「僕の力は霧の妖精には相性が悪いと思う。でも一応対策を考えてみたよ」
「どうやるの？」

　恵御納から攻撃方法を聞いて、羽生も同じ準備を整えた。
　通用するかはわからない。しかし可能性は充分ある。

「じゃ、見つけたら連絡するね」
「うん。あとねこったーで情報流して。同じ目的の人が見てると思う」
「わかった！　恵御納さん、気をつけてね」
「羽生さんも、ね」

　二人は深い霧のなか、ライトを照らしつつ二手に分かれて歩き出した。

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