奇妙なお掃除｜リアクション

奇妙なお掃除

　とある冬の日。
　寝子島高校グラウンドでは、鬼河内巌主催の『究極の大盛りカレー祭り！』が開催されていた。
　１週間前からチラシを配り、クラスメイトたちにはこのことを広めてもらえるよう頼んでいたおかげで客の集まりは上々。開始時間前から長蛇の列ができており、客接待を任されたスタッフは客の対応に追われている。巌たち、究極カレーをつくるスタッフたちも、それぞれ持ち寄った大鍋でカレーを煮込むのに余念がない。
「ごはん、炊けたわよーっ！」
　そんな声が炊飯係から聞こえてきて、巌が「おう！」と答えようとしたときだった。

　空から奇妙な物が降ってきた。

「ん？　なんじゃあ？」
　巌は視界に入ったそれに顔を上げる。なんだかきらきらしていて、よく分からない。
　もっとよく見ようと目を細める巌と前後して、同じようにそれに気づいた者たちのざわつく声が周囲で起きていた。
「ねーねー、あれ何かな？」
「んー。風船、にしては光ってるし」
「ボールみたいだな」
　ざわざわ。
　ざわざわ。
　みんな不思議がっているようだ。
　ゆっくりゆっくり舞い降りてくるそれを、全員が注目して見ていると。
　最初の１つ、小さな丸くてふわっとした光るそれが、カレー鍋のかかったかまどの火に触れて――
　――パンッ！
　小さな爆発を起こした。
「わわっ！　カレーがっ！！」
　勢いでカレー鍋がガタンと倒れたのを見て鍋担当のスタッフがあわてふためく。その様子に、ほかの者たちも現実に立ち返ったようだった。
「ママ、あれ何？　ふわふわでやわらかそうー」
「駄目、触っちゃいけません。噛みつくかもしれないわ」
　次々と降ってくるそれに、子どもたちは興味津々。喜んで手を伸ばしていたが、親たちは眉をひそめ、警戒して、そちらへ駆け出そうとしている子どもの手を掴んで放さない。
「もうおうちに帰りましょうね」
　と、子どもを連れてそそくさと帰りだす親子もいる。
　これには列に並んで順番を待っていた曖浜瑠樹も驚いた。瑠樹はさっきの子どもみたいに、その物体を「ぬいぐるみみたいでかわいいな」と思っていたのだ。
「あれ？　え？　そこの人たち……帰っちゃうの？　カレーは？」
　おろおろする瑠樹の前、１人帰り、２人帰りと、つられるように列を離れていく者が出始める。
　その光景に、巌はショックを受けた。
　有り金はたいてようやく開催にこぎつけた、念願のカレーパーティーだというのに。
「こんなわけ分からんモンに邪魔されてたまるかぁーーーーーッ！！」
　――バシュンッ！
　巌が怒りで繰り出した鉄拳を受けてそれは、あっけなく破裂して消えてしまった。
「ほお。燃えるようだねえ」
　生物教師の牛瀬巧が燃料の火付けに使った点火くんで、やはりそれを燃やしてつぶやく。
「それにしても、これは何だろうね」
「何でもええわ！　何モンであろうと、わしの究極カレーイベントを中止させようとするヤツは許さんッ！！」
　ゴゴゴと背中に擬音が見えそうなほど熱く闘志を燃やしている巌を見て、巧もよっこらしょと立ち上がる。
「せっかくの子どもたちがぎょうさんごちそう食べれるイベントなんや。それは困るなぁ」
「ぎょうさん食えんで困るのは確定的に明らか」
　巧に同意するように、カレーづくりに参加していた屋敷野幹覚や、客として並んでいた者たちの一部がふたりの元へ集まってきた。
　ふわふわ、ふよふよ。風に乗って漂ってくるそれに、巌は指を突きつけ宣言した。

「毎年毎年年末大掃除で培った掃除スキルをなめんなよ！　おまえらみんな、全部掃除したるわ！！」

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