あの日の約束｜リアクション

あの日の約束

　以前に交わした約束を果たす為に八神修と椿美咲紀は揃って映画館に訪れた。修は明るいブラウンの革のコートを着ていた。美咲紀は臙脂のドレスコートに白いパンツルックで愛らしく纏めている。
「ポップコーンと飲み物は映画を楽しむ上で絶対に必要な物なのです！」
　美咲紀の力強い意見を受けて修が購入した。
　薄暗い中、二人は万全の態勢でスクリーンに臨む。
「長いですねー」
　長々と流される宣伝に美咲紀が不平を漏らした。ポップコーンを多めに口に入れて噛み砕く。
「もうすぐ始まるよ」
　修の囁く声に、そうですかー、と間延びした声を返した。その数秒後、『マナの覚醒』は始まった。
「俺の言った通りに」
「集中！」
　鋭い一言で美咲紀は目を見開いた。スクリーンに熱い視線を送る。
　瞬きくらいしろよ、と胸中で軽く返して修は映画に目を向けた。
　二時間と十数分が経過して館内が明るくなった。スクリーンにはテロップが流れている。その最中、人々は席から立って移動を始めた。
　周囲に倣って修と美咲紀も席を立つ。
「とても楽しめました！」
　軽やかな足取りで美咲紀は口にした。修は横目で窺うと、それとなく溜息を吐いた。
「過去の作品の焼直しみたいだった。娯楽性の高さは認めるが。俳優陣の演技に光るものはあった。主演の女性も悪くない。演出や音楽は凡庸だ」
「まあ、確かに似ている部分は多いと、チラッと思いましたけど。でも、ですね！　それは過去の作品への敬愛を込めたオマージュで『歴史は繰り返す』的な暗喩が色々とあるのですよ！」
　美咲紀の熱の籠った弁に修は少し考える間を空けた。
「お供の魔物の出来は良かったと思うよ。総括として本作は繋ぎの回で消化不良。次回作に期待ってところだな。それでこれからどうする？　帰るには早いと思うが」
「まずはmiaoでお昼を食べて、それからスケートリンクで爽やかな汗を流しましょう！」
「いいね、そうしよう」
　修は即座に提案に乗った。美咲紀はメニューを口にして指を折り、ずんずんと突き進む。
「……美咲紀も消化不良なのかな」
　口の端に笑みを浮かべて修は付いていった。

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