寝子島絶叫計画：鷲尾礼美編｜リアクション

寝子島絶叫計画：鷲尾礼美編

●マウンテン・フランケン

　曲がりくねった下水道の迷路を延々と歩き、一行はようやく再び地上へと戻ってきた。
　そこは夜霧に包まれた中庭。
　突如静寂を打ち破り、雷鳴のような轟きと共に地面が大きく揺れる――
　
　大地を揺るがし、霧を割って現れたのは山のような大男、フランケン。

　その姿は圧倒的だが、大き過ぎる身体故に死角も多い。
　その隙をついて、上條暦は棒を手に周辺の木や岩の影へと味方を誘導する。

（これもろっこんの力の暴走の結果なのか……？
　力を得た彼はそもそも何故こんな事をしたんだろう？）

　隠れた一同に気がつかずに通り過ぎるフランケンを見上げながら、暦は思った。
　その問いかけに答えるものはいないが、巻き込まれた皆や先生を助けたい気持ちが彼女を支える。
　
　逆巻天野がスプレーであちこちに魔法陣を書いて、準備を整えているのを確認し、暦は身を寄せていた大木の影から飛び出し、フランケンの進路に立ち塞がる。

「私が見えないのか、フランケン！　こっちだ！　かかって来い！」

　暦は勇ましい声を上げて挑発するが、山のような巨人の前に立つ小柄な少女は非常に危うげに見える。
　フランケンの巨体から繰り出される攻撃を受ければ、ひとたまりもないのではないか――

　暦の声にようやくその姿を確認した大男が、首をひねりながら獲物を見定め、ゴキゴキと間接を鳴らしながら、その大きな破城槌のような拳を握りしめる。

　その巨大な拳が無慈悲にも暦の上に振り下ろされる直前、龍八がコートのポケットから大きめの石を取り出し、『破空砲』でフランケンの頭部めがけて発射する。

　鈍い激突音。

　一撃で昏倒させるとまではいかなかったものの、いきなり横面に叩きこまれた攻撃にフランケンは頭を激しく揺さぶられ、一瞬意識を飛ばす。

「よそ見している場合じゃないぞ。こっちだ！」

　同時に暦は声を上げながら走りだし、フランケンを挑発する。
　頭を振って意識を戻したフランケンは、虫けらのように小さい敵に遅れを取ったことに激昂し、我を忘れてその後を追う。
　猛烈な嵐のように木々をへし折り、土を巻き上げるが、冷静さを欠いた攻撃は力任せで単調だ。
　その攻撃が暦を捉えることは無く、時々降って来る石や木は、ろっこん『ラウンドシールド』で作りだした盾が防ぐ。

　周囲の地面をを穴だらけにし、引き抜いた大木を振りまわして、フランケンはますます怒り狂う。今度はその巨体を生かして轢き殺そうと、身を屈めて雄牛のような突進で暦へと猛追する。
　いくらフランケンの頭が単純で鈍重とはいえ、その瞬間の爆発力には凄まじい物がある。あまりの速度に暦の足ではそれから逃げきることはできない――

　巨大な隕石が落ちて来たかのような衝撃。
　暦の小さな身体は跡形もなく吹き飛ばされてしまったのか――

　しかし、暦は無傷でそこに立っていた。なんと、吹き飛ばされていたのはフランケンの方だったのだ。

　奇跡を呼んだのは天野のろっこん『裏切りテリトリー』。暦や龍八が時間を稼いでいる間に天野があちこちの地面に魔法陣を書いておいたのだ。
　その魔法陣はそこへ入り込んだ現象を文字通り、逆向きに跳ね返す。
　ブレーキの壊れた暴走トラックのようなフランケンの突撃は、そのままフランケン自身に返り、突っ込んだ勢いのまま逆方向へフランケンは吹き飛ばされていた。

　フランケンは何度も攻撃を繰り返し、その度に跳ね返される。だがその攻撃の反射がとどめになることは無く、一行がフランケンを撃破するには決定打を欠いていた。

　そうするうち、ろっこんを使用し続ける天野の疲労もピークに達していた。

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