――五月某日・夕刻:寝子島キャットロード
パープー♪
どこからか豆腐屋のラッパの音が風に乗って聞こえてくる……
一日の終わりに近い夕暮れ時。島を行き交う人々はどこかうつむき加減で足早に帰路を急ぎ、どことなく物悲しい雰囲気を漂わせている。
繁華街であるキャットロードの裏路地。そこは表通りのようには開発が進んでおらず、いまだに古い旧市街の佇まいを色濃く残している。
「長い間ご苦労だったねぇ……本当にお疲れ様だよ……」
その裏路地の一角にある一軒のうらびれた古い駄菓子屋兼雑貨屋の店先で、オーナー店主である老婆が軒先に置いた古いゲーム機を撫でていた。
それは最近では珍しくなったプレイヤーが立ったままでプレイするアップライト型の筐体。
一見すると仏壇かタンスのようなレトロなデザインのそれは、相当年季の入った物らしく、色褪せてあちこちの塗装も禿げているが、丁寧に手入れされて大事にされていた事がうかがえる。
筐体上部に取り付けられたパネルには、仰々しいデザインの『ドラキュラパニック』のロゴ。筐体のサイドパネルにもドラキュラや狼男、フランケンシュタインやガイコツ剣士にゾンビといったモンスターたちがコミカルタッチで描かれている。
「最近の子はこんなゲームはもうしないし、そもそもこんな裏路地の店にやって来る客もめっきり減ってしまった……」
そう言いながら老婆は天井から吊るした模型の飛行機や、くじ引きの駄菓子の箱、虫取り網にブリキのおもちゃをぼんやりと眺めながら、子供たちの声で満たされていた頃を回想して懐かしむ。
「あんたもこの店や私と同じであちこちガタがきてるし、いい加減に引退を考える時だねぇ……」
老婆はため息をつきながら、画面や操作レバーを雑巾で磨き終えると、店の表のシャッターを下ろして閉店の札をぶら下げた。
「イヤダ ワタシハ マダ オワルワケニハ イカナイ・・・」
コンセントを抜かれたはずの筐体の画面が怪しく明滅した事に気がついた者はいない……
●
こんな時間を『逢魔が時』と言い出したのは一体誰なのだろうか?
夕日に長く伸びる影の向こうから魔物が顔を覗かせる――そんな時間にはまだ早過ぎるのではないだろうか。
またオオマガトキとは『大禍時』であるとも言われている。
『大いなる禍々しい時』――災厄の訪れる忌まわしき時間。日が沈みかけてぼんやりとした薄明かりの中で、うっかり何かを見間違える。
それは自分の行く先であったり、すれ違う隣人の顔であったり……
ふとした過ちがとんでもない結果を呼び寄せてしまう――そんな事が起こり得る不安定な時間。
「寄り道してたら遅くなっちゃったわね……」
薄暗くなったキャットロードを足早に帰宅を急ぐのは、寝子高養護教諭の
鷲尾 礼美。
傾いた陽の最後の残光が彼女のかけたメガネに反射する。
胸元の開いたブラウスから零れ落ちそうな大きな胸。高いヒールを履いた彼女はこの風景にはどこかアンバランスで危うげだ。
「……あら、あれは何かしら?」
ふと彼女は裏路地から漏れ聞こえてきた奇妙な電子音に気を惹かれた。
いつもだったら通る事もなかったその裏路地を、今日に限って覗きこんでしまったのはどうしてだろう?
覗きこんだ先の駄菓子屋の軒先に置かれた古いゲーム機の筐体にが、礼美の好きなゾンビのキャラクターが描かれてなかったなら……
煌々と画面を輝かせ、電子音を響かせているその筐体のコンセントが『刺さっていない』事に気が付く事ができていれば……
「あら、懐かしい……こんなゲーム機まだあったのね」
礼美はふと沸き起こった好奇心から、ついつい近付いてその画面を覗き込み、操作レバーを触ってしまう。
画面に映り込んだ自分の顔と目が合う。
「ヨウコソ ワタシハ コノヤカタノ アルジ ドラキュラ ハクシャク」
合成音と共にデロデロデロとおどろおどろしいBGMが鳴り響き、デモ画面に怪しげな洋館の門がアップになる。
尖塔の向こうから飛来したコウモリが人の形になり、現れた青白い顔をした黒いマントの怪人ドラキュラが、鉤爪の付いた手をこちら側へ伸ばす。
「あはは、今ではこの古臭いドットが何とも言えない味ねぇ……!?」
いきなりドラキュラの手は画面のガラスを突きぬけて伸びると、礼美の腕をつかんだ。
「え? なに!? こんな演出今まで見たこと無い……!?」
礼美も流石にこれはフツウではないと思い、逃げ出そうとしたのだが、時すでに遅し。
尋常でない力で掴まれた腕は振りほどく事ができない。
「オマエノ イキチヲ イタダイテ ワタシハ エイエンノ イノチヲエルノダ」
そこには粗いドット絵ではないリアルな怪人ドラキュラの顔。不気味にほほ笑む口元には尖った牙が見えた。
それと同時にものすごい力で腕を引っ張られた礼美は、抵抗も空しく筐体の中へと吸い込まれていった。
アホー
電柱の先で全てを見下ろすように止まっていたカラスが一声鳴いて飛び去った――
どうも柊いたるです。
今回はミッションクリア型の『参加者が積極的に協力・努力しないと散々な結果に終わる可能性のある』ゲーム性の高いシナリオです。
消極的だったり非協力的だったりしたり、作戦に穴が多いとクリアは難しくなってきます。
ミッションを成功させ、気持ち良くエンディングを迎えるには掲示板での役割分担や連携・作戦の相談などが重要になってくるでしょう。
推奨選択肢はサンプルアクションに書いてあるので参考にして下さい。サンプルに無い選択肢を選んだ場合は難易度がはね上がる可能性があります。
・場所/時間
寝子島キャットロードの裏通り
古い雑貨屋兼駄菓子屋の軒先にあるゲーム機『ドラキュラパニック』の筐体の中の世界。
怪人ドラキュラ伯爵の支配する洋館の中。
洋館の周りは森に閉ざされ、沼地や岩地もあって行く先は洋館の中しかありません。
洋館は荒れ果てた庭や地下牢、屋根裏部屋などもある広い建物で、あちこちに罠が仕掛けられ、ドラキュラのしもべのモンスターたちが徘徊していてとても危険です。
時間は夕方以降~深夜を経由する可能性が高いです。
・登場NPC
鷲尾 礼美(色っぽい寝子高養護教諭)
怪人ドラキュラ伯爵とそのしもべたち(詳細はサンプルアクション参照)
参加者の皆さんはガイドの鷲尾先生と同じように偶然その駄菓子屋の前を通りがかり、ゲーム機に吸い込まれたものとします。
行動は基本的にゲームの中の世界でしか行えません。ゲーム世界の外で行動するアクションはまず没になるので注意して下さい。
例外的に無事に脱出が叶えば、戻った現実世界での事後を扱う可能性はありますが、展開次第です。
鷲尾先生は参加者より少し先にゲームに取り込まれ、ドラキュラの第一のしもべである女好きの狼男に牢屋に閉じ込められています。
自力での脱出は難しいようなので、誰かが助けにいかないと酷い目にあわされてしまったり、脱出できなくなる可能性が高いです。
確定アクションは没になる可能性が高いです。
何かやりたい事がある場合にはそれを成功させるに足る内容のアクションで勝負をしましょう。
(キャラクターが『天才なので』とか『武術の達人なので』とか設定に任せるだけで具体的な行動・作戦がないような場合は、うまく行きにくいです。勝手にマスターが拡大解釈することはありません。)
ゲーム世界でのろっこんの使用は、現実世界より多少判定が有利に働くようなので、うまく使うのが勝利のカギになるかもしれません。
一緒に行動したい人がいる場合はお互いのアクションで【】内にGA名を書き込むか、『お互いに○○さんと行動する』のように分かりやすく書いておいた方が、はぐれて残念な思いをするリスクが下がります。