『ロイヤル塩焼きそばパン』はドコへ消えた？｜リアクション

『ロイヤル塩焼きそばパン』はドコへ消えた？

急：廊下での作戦と、体育館での……？

「テオ、そこにいたんだな」
　色々とフォローに回っていた八神修が台車に材料を乗せながら声をかけてきた。偶然校舎を通りかかったテオドロス・バルツァ（以後テオと表記）は、修に気づきながらもあくびを１つするだけだ。
「ちょっと聞きたいんだが、テオはやきそばパンを食べても大丈夫かい？　ほら、塩分とか気になるし」
「興味がない」
　テオはぷいっ、とそっぽを向くと窓から外へ飛び出してしまった。修は苦笑しながらも学食へと台車を押していくのだった。

　修は北校舎の屋上から順に食材探しをしていた。が、北校舎２階での騒動はすぐに聞こえ、彼らの奮闘により小麦粉（と、パンの材料）及びキャベツを学食で待つ北野寧々の元に運ぶ事ができた。その最中逃げようとするキャベツに対し他の食材とのコラボレーションで生み出される味の素晴らしさや、多くの生徒に望まれている事を述べたりしていた。
「望みがあるなら叶えたいんだ。何かあるかい？」
　修がそっと問いかければ、小麦粉たちは「美味しく食べてくれるならいいよ」と言い、キャベツは「逃走させろ！　叶わないならばニンジンとタマネギ（せめて神奈川産）を入れろ！」と抗議していた。
　メモをとった修が寧々にキャベツからのリクエストを伝えると、彼女は「それぐらいならばいいわよ」と頷いてくれた。
「丁度他のおにぎりやサンドイッチ用の材料にあるから、少しぐらいならまわせるわ。それでちゃんと『ロイヤル塩焼きそばパン』が作れるならお安い御用だわ」
　と、寧々は笑い、修は心から頭を下げた。

　その調子で材料探しを続けていた修であるが、南校舎の２階に差し掛かった所で
羽生碧南と出くわした。
「羽生、どうしたんだ？」
「さっき、こっちに麺が飛んできたんだけど見失っちゃって……。あれ、分裂して床すれすれを飛んでいるの！　家庭科準備室に行って網とかそういうのを探しに行こうと思っていたんだけど……」
　話を聞いた修は少し考え、１つ頷く。
「わかった。俺は麺たちがここから下や上に行かないよう見張っておこう。今のうちに行くんだ」
「ありがとう！」
　碧南はそういうと、風のように階段を下りていった。
「さて、俺は麺たちの話を聞いてみるとするか」
　修は足元を注意深く麺の姿を探すのだった。

　＊　＊　＊

　――修と出くわす少し前。

　碧南はどこからともなく聞こえる『めーん』とか『きゃべーつ』とか『ぎょぎょっ』とかいう鳴き声に首をかしげていた。
「もしかして、食材が鳴いているのかしら……？」
　不思議に思いながら声の方へ歩き、一番よく聞こえた『めーん』という声に導かれてやってきたのが南校舎２階。２年生の教室である。
「あぁ！」
　そして、碧南の目前に、袋に入った麺がいた。
（捕まえなくちゃ！）
　手を伸ばそうとしたその時！　どういう原理かは不明だが面が分裂し、袋の外に！　廊下の床すれすれを飛んで、碧南をスルーして行ったのである。
「あぁ～！　これじゃ踏みそうで怖いわよ……」
　袋に入った麺が分裂し、次々に流れるように飛んでいく。下手したら踏んでしまいそうで怖い。
（何か、武器……ううん、道具がいるわね。食べ物だから、調理道具がいいかしら？）
　冷静に考える碧南の耳が、エレベーターの到着音を聞いたのはその時。いいタイミングで修と出会ったのであった。

　＊　＊　＊

　修が時間を稼いでいる間に、道具を取らねばならない。碧南は全速力で北校舎２階にある家庭科室を目指した。つむじ風のように走り抜けた彼女は、思いっきり戸を開く。そして、道具入れから金ざると深めのボウルを選ぶと南校舎２階へ向かう。