寝子島クリスマスマーケットを楽しもう！｜リアクション

寝子島クリスマスマーケットを楽しもう！

「フィリップさん、行きましょうか！」
「ハイです。アイザックもいくですね」

　客足が少し引いてきたところ、ミルカの祖父は遊んでおいで、と二人を送り出した。
　ミルカもフィリップも自分から手伝いを言いだしたとはいえ、本来は楽しむ側の年齢だ。ミルカの祖父としても心苦しかったのだろう。

　クリスマスマーケットが始まってから数日が過ぎている。ミルカはもうほとんどの店を見て回っていた。

「フィリップさん、どこに行きたいですか？　案内しますよ」
「うーん。ミルカさんがオススメの店がいいです」
「ふふ、それならJoulupukkiに戻らないといけませんね」
「あは、そういわれるとそうですねー」

　二人ともサンタの服はそのままだから、周りから見るとイベントスタッフに見えるのだろう。まして陽光を浴びて輝く銀色の髪がとてもきれいで、とても健やかな笑顔で歩くから、まるでこのマーケットのマスコットのようだった。
　特にミルカはもともとクリスマス雑貨の専門店『Joulupukki』の看板娘。周りの店の人たちとも顔見知りで、いく先々で声がかかる。

「僕までこんなにもらってしまっていいのでしょうか？」
「せっかくですし、マーケットが終わったらまたお礼に行きましょう」
「そうですね！　感謝していただきましょう！」

　屋台や出店の人からいろいろと食べ物をもらった二人は嬉しそうに頬張った。アイザックにもおすそ分け。なるべく味が付いてない肉をより分けて渡すと、アイザックは尻尾を振って応えた。
　実はマスコットのような二人と一匹が食べているのを見た客が店に足を運ぶので、いわば歩く広告塔になっている。出店としてはむしろお礼を言いたいくらいだった。

　食べ終わってから中央のクリスマスタワーに向かう。ホットチョコをもらうために。
　温かな甘い飲み物を二人並んでゆっくり味わう。
　人々の笑顔と楽しそうな声を聞きながら、フィリップは穏やかな気持ちでため息をついた。

「ミルカさん。今日はお手伝いさせてくれてありがとうございますです」
「そんな。お礼を言うのはわたしのほうです」
「僕、ミルカさんとおじいさんのお店、とっても好きです。だからお手伝いできてとても嬉しいです。それに……」

　身につけているペンダントを服の上から優しく押さえる。
　お父さん。お母さん。僕はとても幸せです。こんなに素敵な人たちに巡り合って、毎日がとても楽しいです。ここにきてよかったと心から思います。
　静かに微笑むフィリップをみて、ミルカは何かを感じたのか。正面に回り込むと最高の笑顔を浮かべた。
　
「フィリップさん、そしてアイザックも。今日はお手伝いに来てくれて本当にありがとうございます！　わたし、一緒にお店番するの、とっても楽しいです！」
「ミルカさん……」
「もしよかったらいつでもお店に来てくださいね。あ、また手伝ってくれたらもっと嬉しいかも！」

　子供らしいおちゃめな要求にフィリップは心がさらにあたたかくなるのを感じていた。
　横で元気よく吠えるアイザックはまるで「まかせて！」とでも答えているように見える。
　フィリップの答えも愛犬と同じだった。