シネマ☆トリップ！｜リアクション

シネマ☆トリップ！

●乙女心☆トリップ

　気になっていた映画のリバイバルがあると聞いて、桜月は陽が落ちた頃にシネコンへと来ていた。
　その映画は結婚詐欺師の女性が、偶然大金を手にした純朴な誠実な男性を騙そうとして逆に本気で惚れてしまうというストーリーだ。ストーリーにも興味があったのだが、何よりもその映像美や衣装の多様さだ。デザイナーを目指す月としては、見ておきたいと思っていたのだ。
　思っていたのだ、けれど。
　気が付けば様々な場所で着飾って、様々な男性と話をしていたのだった。

「これは……？　私が映画の主人公になっている……のか？」

　艶のあるミンクのコートを着こなして、パーティ会場に彼女はいた。次のカモを探して、ここにいるのだろうと月は推測する。そして、彼の噂を聞くのだ。偶然大金を手にしたという青年の話を。

「しかし困ったな……私は恋愛とかしたことがないからどうすればいいかよくわからないよ」

　けれど、ストーリーは知っているし映画の雰囲気を壊さないように頑張るくらいはできるだろう。映画の世界なら、演じてみるのも悪くはない。これも貴重な経験だ。
　そう思った瞬間、場面は転換していた。目の前には純朴そうな青年、そして月はその彼と話をしていたのだ。
　赤いベルベットのドレスに黒いファーのショール、胸元は少し開いていて扇情的に見えるがそれすらも男の気を惹くための計算だ。
　名前を聞いて、電話番号とメールアドレスを交換して。ここまでくれば、いつもならば落ちたも同然だった。けれど、彼は彼女には靡かない。やんわりとした笑顔で、柔らかい言葉で拒否されるのだ。
　シチュエーションが違っても、男の人が好きそうな衣服を色々試してみても、全て空回りで終わってしまうのだ。これはストーリー通りなのだが、月からすれば自分の魅力が足りないせいだろうか？　と思ってしまうのも仕方ないこと。
　そうして、男と知り合って数ヶ月。ある日彼女は風邪を引いて寝込んでしまう。食事の約束をしていたのだけれど、こんなコンディションではどうしようもないのでメールをしたのだ。
　そしたら何故か彼がお見舞いにきてくれて、今だ。

「風邪が移るといけない、私は大丈夫だから……」

　それは何一つ飾らない素直な言葉だった。男の気を惹こうとした言葉ではなく、男を気遣った言葉に彼はふわりと微笑んだ。それから、

「風邪を引いている君に言うことじゃないかもしれないけれど、今までのどんな君よりも今の君が素敵だって思うよ」

　と、言ってくれたのだ。
　月の頬が、自然と赤く染まる。映画の中のことだとはわかっていたけれど、飾らない自分がいいと言われたことがとても嬉しかった。
　そして、彼と彼女は本当の恋に落ちるのだった。