シネマ☆トリップ！｜リアクション

シネマ☆トリップ！

●ロマンチック☆トリップ！

　その日、夢呼・ステイシーはクラスメイトがこの作品は絶対お勧めだから！　と言っていた映画を見にきていたはずだった。折角勧めてくれた作品だし、ワンコインで見れるしと深く考えずにチケットを購入したのだ。

「これどうなって……ま、どうせ神魂の影響かなんかだろうけど」

　物語の冒頭部分を見ていたはずが、何故か自分が主人公である男子学生になっていたのだ。そのうち元に戻るだろう、適当に過ごすとしますか……なんてのんびり構えていた時期が、彼にもありました。

「何だよこれ！？　どうなってんだ！？」

　物陰に隠れて、夢呼は半ばパニックに陥っていた。何かよくわからないけれど、とにかく女の子達にモーションを掛けられまくるのだ。ちょっと意味がわからないと呟いてから、彼は一つの可能性を思い付く。
　もしかしてこれ、恋愛映画なのではないかと。

「マジか……！！」

　ジーザス、と天を仰いだかは知らないが、夢呼は空を見上げる。そう言えば、勧めてきたクラスメイトはキラキラした瞳で何か語ってはいなかっただろうか。よく聞いていなかった自分も悪いけれど、よりによって恋愛映画である。そういうのは従姉にお任せしたいと思いながら溜息を吐いた。
　一般的な男子であれば、モテモテな主人公という擬似経験は悪くないと思うだろう。夢呼もそうだ、普通にモテるだけなら問題はないのだ。だが、彼には致命的な弱点があった。
　そう、ロマンチックなものが大の苦手なのだ。
　例えば、こんな。

「あ、こんな所にいたんだね！　探しちゃったよ～～。でも、こうやって見つけられたってことは……やっぱり運命感じちゃうよねっ？」
「げっ」
「げ？」
「げほっげほげほ！　なんでもないよ」

　げ、だけで止めた自分を褒めたい。夢呼はそう思いながらジリジリと距離を詰めてくる女の子に、素っ気無い態度を取ってみせる。
けれど彼女は気にしない。うっとりと頬染めて赤い糸だのなんだのと、夢呼に話しかけている。
　夢呼はこれ以上耐えられないとばかりに、用事があるからと早足で彼女を振り払った。

「あ、危なかった……これ以上聞いていたら全身鳥肌だった……」

　何故、こんなにロマンチックな展開というか、ロマンティックを匂わせるアレコレを彼が苦手とするのかといえば、彼の両親が関係している。小さい頃からいつもイチャイチャラブラブな両親に見せ付けられて育ったせいだ。ちなみに現在進行形である。
　その為か、そういうことに直面すると拒否反応がでるようになってしまったのだ。

「これはもう、全力でフラグを折りまくるしかない……！」

　そう決意した夢呼は、それはもう全力をもってフラグを折りにかかったのだった。だって映画の世界の恋なんて、絶対ロマンチックに決まっているのだ。

「うふふ、ちょっと声が聞きたくなっちゃった」
「俺は聞きたくないから！」
「あなたと永遠に一緒にいたいの、ずっと離さないでほしいの！」
「俺は一緒にいたいとは思わない」
「一緒にいると、ドキドキするの。これって、恋かな？　運命って信じる？」
「病院行ったら？　あと運命とかは一切信じてないから」

　等々。彼なりに、女の子達への精一杯の塩対応というやつをしたのだ、が。

「こんなにフラグを折りまくってるのに、どうして皆諦めてくれないんだーー！？」

　それは主人公補正というやつなのだけれど、そんなことを知る由もない彼のロマンチックと言う名の受難は映画が終わるまでたっぷり続いたのであった。