シネマ☆トリップ！｜リアクション

シネマ☆トリップ！

●ゾンビ男子と恋愛☆トリップ

　たまには恋愛映画でも、とシネコンへやってきたのは桜庭円だ。特に前情報もなしにやってきたのだが、丁度リバイバル映画がワンコインで見れるということでラインナップを眺めていた。

「あ、これ見たかったやつだー！　見損ねちゃったんだよね」

　円が選んだのはゾンビと人間が敵対する近未来が舞台のホラーコメディで、ゾンビ男子が人間の女の子に恋をするという恋愛映画だ。わくわくしながら指定席に着くと、上映のブザーが鳴った。

「って、何かおかしくない！？」

　ドリンクを持っていたはずの手は武器を握り、ふかふかの椅子に座っていたはずなのにゾンビから逃げていた。他にも一緒に逃げている子たちがいて、グレネードを投げて！　と声が響く。

「グレネード？　ってこれかな、おらぁ！」

　勇ましい掛け声と共に円の手から投げられた手榴弾は綺麗な放物線を描いてゾンビたちへとクリーンヒットし、爆発する。その隙に円は一緒に逃げている仲間やゾンビをチラ見して、いやぁやっぱり外国の役者さんは綺麗な子が沢山いていいなぁーなんて思っていた。
　その中に、ひときわかっこいいゾンビがいてあれが例の主役のゾンビかな？　なんて思いながら走っていたせいだろうか。
　バナナが。
　バナナの皮が。

「おうっ！？」

　見事につるっと足を滑らせて、円は角に頭をぶつけていた。
　バナナが……と呻きながら目を覚ますと、そこは何故か空港だった。そう言えば荒筋を読んだ時に、空港でゾンビ男子がヒロインに恋をするとかなんとかあった気がする。

「ハッ！　ということは……つまりボクがヒロイン……！！」

　異性としての魅力が低いと思っている円からすれば、イケメンとの恋なんて例えゾンビといえど悪くない、だった。
　だがしかし、世は無常であった。さっき見たイケメンゾンビの傍らにはもうなんかヒロインオーラがバンバン出ている美女が居たからだ。

「ｵｯｶｼｰﾅｰﾅﾝﾃﾞｶﾅｰ？？」

　思わず円も半角カタカナで喋ってしまうというものだ。ちぇー、などと思いながら立ち上がると、またゾンビが来て円は臨戦態勢を取る。
　顔の損傷具合が酷い男子のゾンビだったけれど、何故かその眼差しは優しい気がして円は構えた銃を下ろしてしまった。すると、そのゾンビ……Kというらしい、は円を助けてくれるではないか。話を聞けば、Kは円を気に入って一緒に行動したいらしい。

「ボク、どうやら本筋を外れちゃった……？」

　それはそれで面白いか、と円はこのゾンビ男子と一緒に主人公達を見守ることにした。

「見つかると、危ない。真似、して」
「おっけー！」

　周囲にはゾンビがまだ沢山いて、円はKの真似をしながら移動する。これ、結構楽しいなと思いながらイケメンと美女の主人公コンビを見ると、放っておいても大丈夫そうだ。それなら自分はKとこのゾンビ世界を楽しんでもいいような気がする。

「こっち来て。こっちに見せたいもの、あるんだ」
「うん！」

　ゾンビの振りをしながら、さながらデートのようだと思う。Kが案内してくれる場所は可愛らしい物が置いてあったり、ちょっと眺めのいい場所だったり、ゾンビ世界の隠れスポットみたいだった。
　何より、女の子として気遣ってもらえていることに円はちょっとドキドキしていた。
　日が暮れる前に、人間側のエリアまで送ってくれた彼はとても紳士だ。

「君は意外と面白い人だし、嫌いじゃないよ。それから……楽しかった、ありがとう」
「僕も、楽しかった。ありがとう」

　見つからないように去っていく彼に、そっと円は呟く。
　またね、と。

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