サンタクロースの贈り物～とても良く視える一日～｜リアクション

サンタクロースの贈り物～とても良く視える一日～

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（何だあれは？）
　ヨハン・プレストンは、旧市街の雑貨屋の前で足を止めた。
　何か、異質なものが視えたのだ。
　じっと、目を凝らす。
（疲れているのか？　あの看板が汚れているのは一目瞭然だが）
　ヨハンは、自分の目に視えているものが信じられなかった。
　看板に文字が視える。
　それは、ごく当たり前のことなのだが、彼の目に映っている文字は違うのだ。
『うぅ～、クリスマスが近づいて忙しいのは判るんだけどさぁ。俺の事洗ったの何ヶ月前？』
『俺がすすけてると店の印象だって悪くなっちまうっていうのによ。早く汚れを落としてくれねぇかなぁ』
　そんな人間じみた感想が看板に浮かんでは消えてゆくのだ。
　もともと看板に描かれた文字は日本語で大きく店の名前があるのだが、人間じみた感想文字は、煙草の煙のように揺らいでは移り、消えてゆく。
　そう、まるで今、誰かが思ったことがそのまま浮かんでは消えていっているかのように。
　ヨハンはそっと、看板に近づいてみる。
（何か仕掛けがあるのか）
　看板の裏手を覗き込んでみるものの、そこには、電気系統がずらりと並んでいるだけだ。
　文字を写す何か、そう例えばスライドなどは見当たらない。
　無論、プロジェクションマッピングでもない。
　そんな大掛かりな機材はどこにも見当たらない。
　ヨハンが首をかしげていると、再び、看板の上に文字が浮かび上がる。
『このイケメン、なんなんだ？　俺のことをじろじろ見て。まさか俺に惚れたのかぁ？』
　びくっと、ヨハンは数歩後ずさる。
『お？　なんかビビッてるなぁ。なぁなぁにーちゃん、俺のこと軽くでいいから洗ってくれねーか？　埃まみれできっついんよ』
　看板から浮かび上がってくる文字は、明らかにヨハンに話しかけている。
（待ってくれ。こんなことがあるはずがない。落ち着こうか……）
　やけに大きく鳴る心臓を、ヨハンは大きく息を吸ってなだめる。
　と、その時だ。
　店のバイトと思わしき少女が出てきた。
　手には掃除道具一式を持っている。
　ヨハンと目が合うと、ぺこりとお辞儀して、店のガラスケースやら何やらを掃除しだす。　　
『あーあー、今日も俺のことは洗ってくれねーんだろうなぁ。窓ガラスばっかり綺麗にしてさぁ。俺だって綺麗になりたいっつーの』
　看板のあきらめ交じりの呟きが文字となって浮かんで消える。
　人だったら、溜息のひとつも漏らしていそうだ。
　ヨハンは、こくりと喉を鳴らし、意を決して少女に話しかけた。
「こちらの看板も洗ってやってもらえないだろうか」
「え？　看板をですか？」
　少女はヨハンを見上げ、怪訝そうだ。
　恐らく、店長からは店の前の掃き掃除と、窓しか指示されていないに違いない。
「先ほど、この看板にぶつかってしまってね。汚してしまったんだ」
　ヨハンは咄嗟に嘘をついた。
　まさか、看板が洗ってくれといっているから、などとは口が裂けてもいえないし、汚れているから洗ってくれとは、部外者が言えるものでもない。
「そうでしたか。それでは、ちょっと失礼しますね」
　少女は納得したように頷いて、看板を丁寧にふきあげる。
『おー、きもちえぇなぁ。そこそこ、そこやで。そこが一番汚れとったんや。イケメンのにーちゃん、あんがとなぁ～』
　看板の上に、嬉しそうな感想文字が浮かんでゆく。
　ヨハンは心の中で「どういたしまして」と答え、看板を後にした。
　少しだけ、暖かい気持ちになりながら。　　　
　――この後、次々と雑貨達から願いを口にされ、叶えてゆく事になるのだが、それはまた、別の機会のお話になるだろう。

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