ふと、
弓弦原 譲が本から目をあげたのは、何の偶然だろう?
常日頃、読書を好むせいか、眼鏡がほんの少しずれるだけで視界がぼやける。
ずれた眼鏡を中指で押し上げると、ぼやけた世界がくっきりと輪郭を取り戻す。
そんな彼の切れ長の瞳の焦点に映し出されたのは、
『サンタ★ポスト』だ。
クリスマス雑貨店
『Joulupukki(ヨウルプッキ)』の店の前に置かれたそれに、願い事を書いた手紙を入れれば、サンタに願いが届くとか。
(どうせ、客寄せの為の嘘だろう?)
そんな皮肉めいた感想が以前なら浮かんだかもしれない。
現実的に考えて、サンタなどいるはずもないのだから。
だが。
「サンタに願うほど子供ではないが……そうだな、メガネをかけなくていいくらい視力がよくなれば」
苦笑交じりに、譲は願い事を口にする。
その、瞬間。
(ん?)
彼は眼鏡を押し上げる。
(なんだ……? 急に、視界がぼやけて……くっ)
眼の奥に痛みが走り、軽い眩暈に襲われる。
そう、まるで度の強い眼鏡をかけてしまった時のように。
塀に背中を押し当てる。
耐え切れなくなり、譲は眼鏡を外した。
「……冗談だろう」
譲は外した眼鏡をまじまじと見つめる。
右手に握る眼鏡がはっきりと見えるのだ。
そして、周囲も。
クリスマスの飾り付けが華やかなJoulupukkiの店先も、サンタポストも。
右手に眼鏡があるというのに、世界が輪郭を保っているのだ。
裸眼で、見えているのだ。
そっと、譲は自分の目元を左手で抑える。
そこに眼鏡の感覚はない。
あるはずがない。右手に眼鏡を持っているのだから。
「冗談、だろう?」
もう一度呟く。
いるはずのないサンタが、譲の願いを叶えた瞬間だった。
――寝子島のあちらこちらで『何かが視える』と騒ぎが始まるのは、このすぐあとの事。
あるものは、幼い時に亡くした母が視えたり。
またある者は、探し物が視えるようになったり。
視えなかった何か、視たかった何かが。
皆の目に映る。
たった一日の奇跡の瞳。
貴方の目には、なにが視える?
はい、こんにちは。
今回は、クリスマスイベントの『サンタさんに手紙を送ろう!』企画より、弓弦原 譲さんの願いを採用させて頂きました。
普段は視えない何かが視える一日を、楽しんでください。
◆「普段は見えない何か」や「その見え方」は自由に考えていただいて構いません。
(例:人の気持ちが文字になって見える、霊が実体化して見える)
また、見えたものが幽霊など会話できそうなものであれば、会話もできます。
◆見られたくないもの
他のキャラクターなどが見られたくないであろう内容を見る場合は、必ずGAを組んで参加してください。
(通りすがりの人などのモブNPCが対象の場合は、GAでなくても問題ありません)