みんなショタったらいいじゃない（例外もあるけど）｜リアクション

みんなショタったらいいじゃない（例外もあるけど）

　ご機嫌な様子で１、２音鳴らすと早速奏ではじめる。伸びやかで、夏風に溶けるようなボーイソプラノが響き、お姉さんがうっとりと聞きほれる。
（あぁ、ピアノを弾く姿もかわいいなぁ）
　ロベルトもうっとりと聞きほれていると、傍らの碧南は「そうだな」と頷きながらも少し草臥れていた。まぁ、身体が小さくなっているのだから当然だろう。
（喉が渇いちゃったな）
　と、碧南はカウンター席に座る。と、お姉さんがにっこり微笑んで「いらっしゃい」と言った。
「何が欲しいの？」
「そうだな……。君のおすすめを１つ」
　ちょっと気取ってそう言えば、お姉さんはにっこりわらってカウンターの奥へ。何が出てくるのかな、とわくわくしていると……傍らの露草がさっきからまったく動いていない事に気付いた。
「どうしたの……って、これ……」
　不思議に思って露草に声をかけた碧南の目が、用意された皿の中身に釘付けになった。というのも、そこには上品に盛り付けられたフォアグラのソテーのトリュフ添えと、キャビアを載せたクラッカー、ワイングラスに注がれた緑茶があった。
　そして、それらを前に、露草は物凄く硬直していたのである。
「こ、これは……キャビアにトリュフにフォアグラ……！？」
「うん。どうみても高級食材だよね」
　碧南の言葉に、露草は手にしていた銀食器を落とし、「Nooooooo！？」頭を抱えた。どうやら~~正気度チェックに失敗~~錯乱してしまったらしい。

　※露草は過去にあった事が原因かは不明ですが『自分に大金や高価な物を送られたりする事』に恐怖を覚えます。

「だ、大丈夫？！」
「お、落ち着いて……。何なら食べようか？」
　碧南が不安げにお茶を差し出し、落ち着かせようとする。ロベルトもこの様子には静観できなくなり、ピアノを弾こうとした悠月も慌てて駆け寄った。だが、２人の声で我に帰った露草は首を振った。
「うぅ、でも……このお姉さん曰く、これを自分で食べなくてはならない上、ここから出られないのデース……」
　その言葉に、２人は「えっ？！」と目を丸くする。と、カウンターにいたお姉さんがふふ、と笑う。

「飲み物を頼んだ人はね、一緒に出された物を食べなくちゃいけないのよ」
　そう言って彼女は碧南の前に一見シャンパンのように見える飲み物と……メカブ・オクラ・納豆・ヤマイモのねばねばサラダが出された。
「～～～～～～っ？！　こ、こんな物く、食える訳が……」
　実を言うと、碧南はこのようにぬるぬるとした食べ物が大の苦手なのである。あっ、と言う間に背中に冷たい汗が流れていく。
「あはは……、いやぁ、まいったなぁ。おねーさん、ちょっと意地悪じゃない？」
　今までちびちびとオレンジジュースを飲んでいたなつだが、彼の皿に盛られていた物をみてロベルトと悠月は思わず口を開けた。どうみても虫……イナゴの佃煮だったからである。
　なつは料理や茶道、着付けに行儀作法などを姉と母に教え込まれてきた。勿論、すききらいを無くすよう言われて育てられたものの、これだけはどうしても生理的に受け付けないようだ。
「えへへ……俺これにがてだなあ～」
　と、箸を手にして苦笑い。確かに、これはちょっと酷である。
　カウンター席の露草、なつ、碧南は、三者三様の表情で色々な感情と戦っている。ロベルトと悠月はその光景にしばし悩んだ。
「高級食材やねばねばしたモンは平気だけど、イナゴはな……」
　自分は辛いものが苦手、と内心で付け加える悠月に、ロベルトはこくん、と相槌をうつ。彼がみた限りでは露草の様子はどうみてもトラウマに近いレベルだし、いろんな意味で心配である。