熊の霍乱？！　風邪にご用心！｜リアクション

熊の霍乱？！　風邪にご用心！

　この後、数名の者が体調を崩していた。たとえば幾度もろっこんを使用していた牡丹と林檎は極度の疲労感に襲われていたし、看病に集中していた時子も疲れていた。無理して動き回っていた千鳥も熱を出し、ベッドに横たわっている。
「まだチキンスープはあるわ。飲む？」
「うん、くれると嬉しいな。さっきから悪寒が止まらなくて」
　さゆるの言葉に、千鳥が頷く。別の場所では疲労でふらふらとなった牡丹と林檎がベッドに腰掛け、おかゆを口にしている。
「とりあえずは、解決したみたいでよかったです」
「ああ。……それにしても、『優しさ』が最大の薬になるなんてなぁ」
『やっぱり、大切な事なのかもしれないね』
　牡丹と林檎はそんな事を言い合いながらおかゆを食べる。確かに考え方は違う２人ではあるが、あの時、熊吉の風邪を治したいと思っていたのは本当である。胸の中にもやもやしたものを覚えながらも、２人は互いに「お疲れ様」と笑いあう。
　一馬は関節痛が無くなると普段どおりに動けるようになり、テキパキと後片付けをやっていた。竜司と蛇那伊、真央と手分けして道具を消毒し、元の位置に戻す。
「まっ、解決してみんな元気になったけどよ。今日は早めに休んだ方がよさそうだな」
「さっき天気予報を調べたけど今夜はとくに冷えそうですって。栄養ドリンクがあるから飲んでおく？　あっちで鷲尾先生が配ってたわよ」
　一馬と蛇那伊の言葉に、真央がにゃふっ、と反応する。彼女はさっそくドリンク剤を貰ってくると一馬たちに手渡した。
「風邪は治っても疲れはあると思うのだ。みんなでぐいっと１本なのだー」
　そう言って真央はドリンク剤を呷ると空き瓶にきっちり蓋をしてポケットにねじ込む。改めてハキハキとした様子で後片付けを頑張る姿に竜司たちはまけてられないな、と気合を入れた。

　綾花と円はすっかり元気になったテオと共に玄関にいた。帰ろうとしたテオだったが、にゃーくんに捕まり、（物理的にも）なつかれて動けなかった。
「なんかまた迷惑かけちまったな」
　ぶっきらぼうにそういうテオであったが、素直にお礼をいえないだけのようで感謝はしているようだった。その証拠に尻尾はぴん、と立っている。円と綾花はそんなテオにくすっ、と笑う。ややあってテオはふいっ、とその場を離れるも、円は彼らしいな、と苦笑するだけ。
「神魂で皆が風邪、だなんて大変だったけど……、猫への看病とか覚えててよかった」
「今日は、やけに長く感じましたね」
　２人はそう言い合いながら保健室の片付けに戻るのだった。

　寝子島内某病院。点滴が終わった修は、すでに全快していた。彼が帰り仕度を整えているとあおいから連絡が入っていた。
　病院を出て電話を掛けると、ののこもあおいも症状が改善した、と嬉しそうに報告し、改めて２人からお礼を言われた。修は「また明日、学校で」とにっこりと笑った。

　――翌日。

　普段どおり元気に出勤した熊吉は、いつものように豪快な様子を見せていた。だが、なんとなくだが、「バカタコがー！」という叫びが、普段より優しかったような気がするのは、気のせいだろうか。
　珍しく遅刻することなく学校へきたさゆるは、下駄箱付近で林檎と遭遇する。
「おはよっ。……って、同学年だったのか？！」
『昨日はごめんなさいっ！』
「ううん、慣れてるから」
　さゆるはそう、自分でも気付かぬうちにちょっとだけ、優しく微笑んでいた。林檎は恥ずかしい気持ちになりながらも、にっこり笑って共に教室まで行く事にした。

（終）

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