クリスマスを飾ろう！｜リアクション

クリスマスを飾ろう！

「——だいたいこんな感じかしらね」
　商店街のとある生地屋で、三宅葉月は満足そうにひと息ついていた。

　それは数日前のこと。
　葉月がお気に入りにしている行きつけの生地屋の店長が、彼女にある御願いをしてきた。
　——うちの店のクリスマスの飾り付けを手伝って欲しい。
　この時期は忙しく、考える暇がないのだという店主は、葉月が芸術科に所属していることや、学生が様々な経験を積んで欲しいという考えから依頼をしてきたのである。
　得意な事を生かせる、新しい経験が出来ると二つ返事で受けたものの、その後考えることは山ほどあった。
　まず店のイメージに合わせること。
　そして商店街のイメージにも合わせること。
　生地屋の店長によると、飾り付けを依頼された日は、商店街全体が飾り付けをする日で、往来なども一斉に飾り付けをされるのだそうだ。
　色々と案を考えた結果、葉月はお店ごとイメージに合わせたイルミネーションを提案した。
　商店街全体と合うように、賑やかに、大掛かりになりすぎない程度のものだ。過度に電飾を使えば派手過ぎて下品な印象を与えてしまいかねないと、そこは気を使い、ＬＥＤライトのイルミネーションに加えて、一部はガーランドなどで客の目を引きつつも好印象を与えるように作る。
　敢えて地味なアイテムも使って、生地屋という年齢層の高い客が多く訪れる店に合うように心がけた。

　こうして完成した飾り付けの全てを見る為、葉月と店主は店を向いの道まで出ていた。
「子供も大人も心がときめく様な感じにしたかったんです。
　この店はいい品を扱っていて値段も良心的だし、私もボタンや生地を見て、楽しくなるから」
「そっかあ、ときめきかあ……いいねえ」
　自分にはない感性を聞いて、店主はしみじみと頷く。
「いやあ、葉月ちゃんのお陰で素敵になったよ」
　店主に握手を求められ、葉月は控えめに微笑んだ。

＊　＊　＊　＊　＊

　毒島林檎の母親の機嫌が芳しくなくなったのは、ここ最近の事である。
　母親は妊娠中という事もありホルモンバランスの影響もあるかもしれないが、一番の理由は『絶対安静』を言い渡されている所為だろう。普段から考えなしに動くところがある人だから丁度良いのだが、本人はなっとくがいかないのだろう。
　それから林檎は母親についてもう一つ気になるところがある。
　曰く、「お袋は普段の三割増しで、親父に惚気てるな」——。
　父親は安静にしている母親に付きっ切りだ。勿論林檎にはそのしわ寄せがくる。
「本当にあの……バカップルは……」
『でも仲良しで良かったよね！　いいなぁ、私もあんな風な夫婦になりたいな〜』と言うのは彼女が表に出さない本心だ。

　ともかくこうなっては家の薬局『アネモネ』は、林檎が一人で飾り付けするしかない。
「イチャイチャしてる二人を邪魔するのは悪いしね！」
　そんな風に割り切って、早速——と言うところで林檎は手を止めてしまった。
　そもそも薬局に何を飾ればクリスマスらしくなるのだろうか。
「とりあえず……」　　
　毎年飾っているツリーは必須だろう。
　入り口に設置を終えると、早速飾り付けをしていく。カラフルなオーナメントをつけて、最後にてっぺんの星を飾った。
「これでツリーは終わり。あとは……」
　一つ完成させるとアイディアは湧いてくるもので、それから林檎は窓にベルの形のシールや電飾を飾っていった。
『うんうん！　大分らしくなったね！』
　様になったところをみて、満足そうに息を吐く。すると冷たい冬の空気が吹き付けてきた。風邪をひかないうちに中へ、と扉へ手をかけた時、林檎ははっと思い出した。
　そして入り口に赤いアネモネの造花を飾る。
　アネモネは一般的に春に咲くもので、そう考えると時期外れな感はあるが、この店を象徴する花だ。
　——君を愛す。と言う花言葉もまた、林檎の好きなものである。
　これで完璧だと頷いて、林檎は店の中へ戻っていった。
　今は大変な時期だが、来年には家族が増える。それを楽しみにして、彼女は今日も頑張っている。