トワイライト・フェアリーテイル　―逃げ出した姫―｜リアクション

トワイライト・フェアリーテイル　―逃げ出した姫―

（ここじゃ、ちょっと危ないかな）
　その様子を見ていたサキリは、目深にフードを被り、首を振る。そしてねこったーで流れる情報を見ながら華夜たちの様子を伺うのだった。

　しばらく黄昏時の街を散策し、おしゃれなジャズ喫茶にいた４人。ジャズの音色を聞きながら紅茶などを楽しんでいたものの、華夜はどこか移り気である。見目良いだけでなく彼女が『面白み』があると踏んだ男性はつい目で追ってしまう。
「妬いてしまいそうだよ」
「あら？　ごめんなさい。でも……ついつい追っちゃって」
　蛇那伊がそっと苦笑しつつ囁けば華夜もまたちょっと苦笑して頷く。そうしつつも智瑜との恋話に花が咲く。
（華夜さんは、恋がしたいのね……）
　兄が進める相手は真面目で堅苦しい人間ばかりだ、と漏らした華夜の表情は僅かに沈んでいた。

　――ここで、時間を華夜が紫と対峙するちょっと前まで遡る。
　その頃、後木真央は雑貨屋へ飛び込んでいた。
「ごめんくださいなのだ。ロープ、あるのだ？」
　血相を変えて飛び込んできた少女に店主は面食らうも、ロープがある所へと連れて行く。真央は「おつり要らないのだ」とお金を渡し、雑貨屋を後にした。
（まゆちゃん先生まで、ロープ届くのだ？　何かに昇らないと駄目そうなのだ？）
　思ったより高い場所に飛んでいる事に気付いた真央は、どうにか先回りできないか考えた挙句、屋根から屋根へと飛び移る事にした。幸い忙しい時間帯であるためか、気付くものはそう居ない。だが、今の彼女を見たものは十中八九猫のような動きをしていたように見えるだろう。
「まゆちゃん先生！　助けるのだ！！」
　真央が輪をつくったロープを投げ縄の要領で投げる。だが、それは彼女の足に引っかかろうとして落ちる。それでもあきらめず投げ続けるも、うまく行かない。よく見れば、まゆが飛んでいる位置がすこし上がったような気がするのだ。それでも、真央の顔に焦りは浮かばない。
（真央ちゃん、あきらめないのだ。ここでやらなきゃ女が廃るのだ）
　真央が再び屋根から屋根へ飛び移ろうとしたとき、一羽の鳥が真央の側を通った。

（相原先生！）
　華夜に関しては、他のメンバーが当たっている。ならばまゆを助けようと、御巫時子はろっこん『鳥の囀り』の進化能力をつかい鳥の姿へと変化していた。こうして探した結果、直ぐに見つけることが出来た。ゆっくりと空を行くまゆと、その先にある門の距離を割り出し、まだ時間に余裕があると割り出した彼女は一旦変身を物陰で解き、まゆの現状をねこったーに上げた。
（それにしても……華夜さんが尚輝先生に声を……）
　時子は先ほど聞いた動揺を隠せずにいた。彼女が慕う五十嵐尚輝に、華夜が声をかけたのだ。だが、尚輝はそれとなくかわし、雑踏へと消えていったのだろう。そんな彼は、用事が済んだのだろう、既に旧市街から立ち去っている。
（もし、デートとかしていたら……もっと動揺していたでしょうね……。月の世界に連れて行かれたら困ります）
　少し妬きもちを焼いてしまいそうになりつつも彼女は鳥の姿をとって再び舞い上がる。そして目撃したのが、まゆを助けようとした真央の姿だった。
（あぁ、惜しい！）
　あと少しでロープが届きそうだった。けれど届かず、内心でため息を吐く。だが、ホバリングした状態でまゆを見つめ静かに考える。
（まゆ先生は『ひと』……なら、ろっこんで鳥の姿に変身したら効果は薄いかもしれません……。徐々に戻れば重さで地面に下りれるでしょうか？　もしくは、木の上とか安全な場所で解除して一緒に……）
　時子は一声鳴くと、風を切った。そして、まゆが下りても大丈夫そうな場所を見つける……役場の屋上だ。
　時子や真央は、今まゆが飛んでいる高さよりやや高い場所に門があることを確認している。まゆはらせん状に飛びながらあの門へと向かっているようだった。
（仕掛けるなら、今です！）
　時子はありったけの勇気を振り絞り、まゆへ向かって飛んでいった。