……アンド・ジャスティス・フォー・オール｜リアクション

……アンド・ジャスティス・フォー・オール

「来たぜ」
　と少年の一人がささやきました。一緒に隠れている少年が小声で応じます。
「あいつでかくね？　やっぱ兵藤のスタンガンがあったほうが……」
「こっちは数で勝ってんだ。気にするこっちゃねぇ」
　どうやら他のメンバーも同じ意見のようです。誰一人動きません。
　だから今、姿を見せているのは、枯れた噴水の縁に腰掛ける少女一人でした。
「おじさん、書き込みくれた人？」
　少女の狐目が、媚を売るように歪んでいます。
　おじさんと呼ばれた男、つまり尾鎌蛇那伊は背を丸めたままのろのろと近づいていきます。まるで、お前はガタイが大きすぎて迷惑なんだよ、と怒鳴られたばかりの人のように。
「あ、ああ、うん……」
　卑俗な身を自覚しながら、それでも自分は課長なんだと主張するかのように空咳して、蛇那伊はうなずきました。
「でさ、５（ご）って話だったよね。ホ別（※）ね」
「あ、うん、わ、わかってる」
　叱られている途中のように言葉少なく応じます。しかれども分厚い眼鏡の中の蛇那伊の目は、この萎縮したような態度とは裏腹に、自分の視界をせわしなく変化させているのでした。状況を確認しているのです。不意打ちを受けても対応できるように。
「い、行こう」
　蛇那伊がそう言って片手を伸ばそうとしたときです、背後から急迫する足音を彼は耳でとらえていました。
「天誅ーっ！」
　ごすっ、と膝裏に金属バットの一撃が沈みました。
「正義の制裁だ！　この援交オヤジが！」
　続いて鉄パイプ、今度は後頭部にです。
「ひぃッ！」
　蛇那伊は大袈裟に悲鳴を上げると頭を手で覆い地面にうずくまり、亀のようなポーズを取りました。
「この野郎なんだそれは！」
「でかいクセにみっともねー！」
　少年、少女たちはそこにたかって、目隠しなし、打撃回数無限のスイカ割りが始まったがごとく、どすどすとバットやパイプを振り下ろしていきます。
「許して……許して下さいっ！」
　蛇那伊は悲痛な叫びを上げました。まるで自分が、屠殺という運命を知る家畜になったかのように。
　けれどもこれはすべて彼の演技です。蛇那伊は実際には、初撃と二撃目を完全に読んでいました。彼は微妙に体をずらして金属バットや鉄パイプの先ではなく根元の方が当たるようにしてダメージを最小限に抑えていたのです。今のこの姿勢も、防御としては理想的な形です。悲鳴は、相手の嗜虐性を満足させるための演技なのでした。
「これ以上見ちゃいられねえ！」
　このとき計画よりやや早く、隠れ場所から風雲児轟が飛び出していました。
「おーっと、それまでだ！」
　立て続けに彼は、「戦衣着装」とキーワードを口にしています。