……アンド・ジャスティス・フォー・オール｜リアクション

……アンド・ジャスティス・フォー・オール

　――なんか声が？
　七枷陣は顔を上げました。
　公園が広いのは、この場合不利に働きました。声らしきものがうっすらと聞こえたような気がします。けれども、それが人の声だという確証はありません。
　暗い公園内の細道の途中、ぽっかりと開いたスポット、随分前に枯れたままと思わしき噴水（の跡）があるほかは、半分切れかけた街灯が一本杉のように立っているばかりの広場です。ベンチの一つすらありません。
　陣はそのスポットの中にいるのではなく、それを陰から見る位置に身を潜めていました。息を殺しているつもりですが、それでも呼吸音がしているような気がします。
　陣は、ネット上で知り合った謎の人物から勧誘を受けてここに来たのです。女性らしきその人物は、この夜この公園のこの場所で何かが起こると陣に予告し、「見に来ては？」と呼びかけてきたのでした。まるで野球観戦にでも誘うような口ぶりです。といっても時刻は不明、そもそも彼女の情報が事実という確証はなにもありません。
　しかし他に手がかりがない以上、陣はその糸に頼るほかありませんでした。空振りに終わったとしても後悔しないつもりです。真贋はともかく、何日も探し続けてやっと得たヒントなのですから。
　――呼びかけの主はこの場所だと言ったはずや。
　陣には確かめに行く『手段』はあります。ただ、それを使うのは今の陣にとって一晩に一回が限度、すなわち一枚きりのジョーカーというわけです。切り札をきるのは慎重にいきたいところ。
「動かないことにしましたか。賢明です」

「ファッ！？」
　陣は思わず声が漏らしかけますが、常闇月はそんな彼の前に指を立て「しーっ」と指示するのでした。
　驚くなといっても無理な話です。なぜって陣はその真横から突然、彼女に声をかけられたのですから。枝が折れる音も枯れ葉が踏まれる音もしませんでした。それどころか空気の流れる音すらしなかったと思います。
　陣は声をひそめました。
「あんたか……僕にネットで呼びかけてきたのは？　ここで何かが起こる、って」
　いいえ、というように月は首を振ります。
「ですが、私たちのほかに、この場所にたどりついた人間がいることは気がついています。勝手ながら、あらかじめ他の方の立ち位置は把握させていただきました」
　月の声には抑揚がなく、風のささやきのように聞こえます。陣も釣られて声をフラットにして、
「他にも何人かおるんか？　この……事件を調べに来た人間が」
「ええ。私たちは六人、咥えてあなたの他に少なくとも二人、この近辺で動いている人がいます。これ以上悪事を重ねる前に彼らを止めよう、そう考えている人たちが」
「多いな！　なのに一人も気付かんかった」
「それが普通です」
「あんたは普通じゃないってのか？」
「私は……」
　彼女が小さくため息をついたように陣は感じました。
「私は、特別な訓練を受けていますから」
「それって……」
　その言葉を遮るように、すっと少女は右手を挙げました。
「来ました。おそらくは、犯人たちが」
「俺は七枷陣、協力させてくれ」
「常闇月です。喜んで」
　口をつぐみ、息を殺しながら陣と月のふたりは、広場にばらばらと入ってきた子どもたちを見たのでした。