【最後はやっぱりデザートで】

　水守 流もまた、食道楽を満喫するために持って生まれたかのような、鋼鉄の胃袋の持ち主。今日は朝から早々に会場へと乗り込み、数々のグルメを味わってきました。
　最初にいただいたのは、寝子島を代表する筆頭メニュー。
「『寝子島丼』、ひとつ」
　あいよっ、と小気味の良い店員さんの声。待つことも無く、すぐにもしゅばっと出てきた丼には、山盛り釜揚げしらすの形作る、まるでかの九夜山のごとく美しき白い山。ぱらりと振りかけた薬味ネギ、ちょっぴり垂らしたお醤油の香りもたまらず、さっそく流は……ぱくり！
（……うん、これこれ！　これなんだよな。ぷりぷりとしたしらすの食感、漂う風味。ほんのり塩気が白飯と合う。さっそく俺の胃袋が、九夜山登山を始めたぞ）
　いつだって変わらない至高の味に、嘆息。堪能！　でありました。
　続いていただいたのは、なかなかにユニークな一品。
（『サンマー麺』？　そういうのもあるのか）
　チャーシューの代わりに、どん！　と乗っかっているのは、サンマの蒲焼き！
（よし、食おう。絶対大盛りで食おう）
　と決めたら一直線、さっそく注文を飛ばします。味噌塩醤油と選べるようですけれど、今回はオーソドックスにしょうゆ味サンマー麺をチョイス。
　まずはスープをひと口。
（おお……やっぱりこの季節は、ラーメンの汁が身体に染み渡る。寒さで広がりがちな心の隙間が、ずんずん埋まってく感じだ）
　薄口の魚介出汁スープに、甘辛い蒲焼きのタレがじんわりと染み出して溶け合い、何とも深い味わい。思わずお腹の奥から、ほうっと一息。
　メンは中細麺、甘辛タレとスープのブレンドがしっかり絡みついて、ずずずとすすった直後に蒲焼き、ぱくり。
（初めて食べるはずなのに、どこか懐かしい。この安心感……疎遠になってた友人とばったり再会したかのようだ）
　ラーメンに満足したところで、そういえば今日は、お肉をまだいただいてないな、と気付いた流。さっそく記憶の中の場内地図を呼び起こし、焼き鳥に牛ステーキ串に、ハンバーガーにドネルケバブに、山盛りの鳥から揚げに……最短ルートで肉メニューを買い集めたら、次々に間髪入れず口の中へ。ばくんばくん！　
　お肉はやっぱりエネルギー直結、瞬く間に全身へと活力がみなぎってくるかのようで、
（うおォん！　俺の胃袋の溶鉱炉に、火がともったぞ！）
　……とまぁ、そんな具合で胸中にて孤独なモノローグをつぶやきつつ、無心に食べ歩きを楽しんでおりましたら。ぱ！　と道の脇に設置されたモニターへと映り込む、笑顔のハルさん。
「ぴんぽんぱんぽーん！　本日はご来場いただきましてーェ、まことにありがとうございまーす！　大盛況のイベントも、残念ながら残り時間あと僅かーっとなりました。皆さん、お目当てのメニューはいただけました？　心残りはありませんか？　あっても大丈夫、まだ間に合うッ！　さあさあラストスパート、最後までがっつり食べまくっちゃいましょう！　Please enjoy♪」
（何だ、もう終わりか。食べたりないが……ま、腹八分目というし）
　いつの間にやら時間も過ぎて、イベントの閉幕まであと３０分というところのようです。
（……よし。最後はやっぱり、甘いもので締めるとしよう）
　もちろん流も、ラスト１秒の瞬間まで、楽しむつもりです。



　定食屋『おにざき』は、旧市街は参道商店街に店を構える、ごくこじんまりとしたお食事処です。とは言ってもそのお味は本物、看板メニューの海鮮丼は具だくさんで、サンマさん定食もおにざきスペシャル定食も、店主さんの気まぐれで毎日メニューが変わる日替わり定食だって、最高！　いつ来店しても、新鮮な楽しみがあるのです。加えてふたりの美人＆可憐な看板娘さんが接客してくれるとあってはもう、流行らないはずがない！
　……とは、どうにもうまくいきませんで。そんな美味しいご飯を提供してくれる店主さんに、ぶっちゃけやる気、あんまり無かったりするのでした。おかげで『おにざき』はいつだってがらんと閑古鳥が鳴いている、売り上げ的にも寂しい状態が続いているのです。
「……それじゃいけない！　って、思ったんです。それが今回、出店を決めた理由ですね」
　そんなわけで本日、新メニューを引っさげ、『おにざき』の看板を背負って屋台を出店した鬼崎 あやめ。向けられたマイクやらカメラに向かって、もうこれ以上にないほど、にーっこり！　素敵な笑顔は、会場中のモニターを通じて見たお客を、軒並み魅了してしまいそうなほどでありました。
「なーるほど！　確かに、こんなに美味しいのに繁盛しないなんておかしいわよね。でもみんな知らないだけで、一度食べたら病みつきよん！」
　実際、今日の出張屋台にはお客さんが波と押し寄せ、大繁盛！　思い切って出店してみた甲斐があったというもので、これからは本店のほうにもいくらかお客が増えてくれるかもしれません。
　片手に焼き鳥、片手にマイクの二刀流なハルさんは、続けてあやめへインタビュー。
「ちなみに、一番のおすすめメニューは？」
「そうですね。新メニューの『寝子島欲張り丼』はご好評をいただきましたし、焼き鳥もいつもより売れ行き好調ですし。どれもオススメですけど……やっぱり、『富士山牧場の採れたて玉子プリンパフェ』でしょうか」
　そう。これこそ、夏には水着コンテストの折、浜辺でも売れに売れて大好評だった、絶品プリンパフェ！　でかい！　甘い！　アイスにフルーツにクリームもてんこ盛り！　そのお味には、あの初代ビーチ☆スターをもうならせ絶賛したと言います……本イベントにて提供されているデザートメニューの中でもひときわ輝く、甘味の王様でありました。
　ふと、あやめはちょっぴり遠い目。
「……あそこの牧場と提携するのには、ええ、苦労しましたからね。フフ……」
　何しろこれ、メニューとして成立するまでには、諸々の紆余曲折があったそうでして……。
　まぁそれはともかく、押しの強い例のセンセーの実家たる牧場とがっつり親密に連携することによって、すこぶる質の良い新鮮タマゴを仕入れられるようになり、このプリンパフェは誕生したのでした……あやめのプライドとか何とか、そーいうのがちょっぴり犠牲になったとしても、この味のためならいたしかたないというところでありましょう。はい。
「え、えーっと。とにかく！　『おにざき』さんのプリンパフェったらサイコーよん、check it outっ！」
　ここでカメラは客席のほうへパン、件のプリンパフェを幸せそうなお顔でいただく面々を映し出します。
「……今回は、負けたってことに……してやらなくも無いけどな！」
「ああ、けどお前もよくやったよ。紙一重だったぜ……色々と」
　双葉 由貴、山田 勘三郎のスープカレー対決は、ナパーム級の辛さに大悶絶を経て、ひとまず僅差で勘三郎の勝利となったようです。今はその戦いの傷（？）を癒すべく、優しい甘味でお口直しをば……ふたり揃って、プリンとクリームを一緒にぱくりっ。
「「あンま～～～い♪」」
　激辛と戦った後の甘いものは、格別！
　お隣には篠原 翠響とそのご両親。翠響もまた、プリンパフェに癒しを求めて訪れたようで、
「辛いものを食べた後の、このパフェ！　最高よねっ」
　食べ歩きを甘味で締めくくるべく、ふらりとやってきた流はただ黙々と、ぱくぱく、はむっ。
（……いいぞ。俺の身体は、これを求めてたんだ）
　とかなんとか、きっと心の中でモノローグしていることでしょう。
　再びカメラが戻ったなら、あやめはやっぱり、魅惑のスマイル。にっこり！
「定食屋『おにざき』は、旧市街の参道商店街で営業中です。ぜひ、食べに来てくださいね♪」
　宣伝もすることができて、売り上げもかつてないほどに絶好調！　今日は、大変に実りある一日となったようです。