【お三夜】ワッショイ！寝子島お三夜まつり！｜リアクション

【お三夜】ワッショイ！寝子島お三夜まつり！

　瞳を明るく輝かせて、志波武道は腕をぐるぐると回す。
「およぐぜーちょうおよぐぜー！　１００メートルならイケル！」
　水泳は得意な武道である、距離的には問題はないだろう。
　ただ、唯一にして最大の懸念は、
「ウッ、寒イ……うん、もう１２月マジカダヨネ！」
　冬の香りを纏い始めた風の、身を切るような冷たさなのだった。
　けれども、武道の瞳に燃える闘志の炎は揺らぎはしない！
「だが！　俺はマケナイ！！　そこに泳ぐ舞台がある限り！」
　宣言するや否や、武道は自分の衣服に手をかけた。

「なんだか久々な気がする神速脱衣っ！」
　ぬぎっ、と、あっという間に水着姿に早変わりの武道である。
「って、寒！　サムゥウい！！」
　吹き荒ぶ風に凍える武道の姿に、メンズ用競泳水着に着替えた曖浜鴻がくつと喉を鳴らした。
「若いのは元気があっていいな」
「鴻さんこそやる気満々じゃないスカー」
「うん？　ああ、まあな。去年までは最終日に仕事入ってたが今日は休みが取れたし、己の体力確かめるってのもなかなか燃えるじゃねぇか」
「おおー、アツい！」
　寒中水泳に備えて準備運動をしっかりと行いながら、談笑する武道と鴻。
　互いに三夜湖を泳いで渡ることを目指す猛者だと知って、意気投合した２人である。
「……ところで、荷物って誰に預けりゃいいんだ？」
　入念に身体を動かしながら、ふと思い出したように鴻が問いを零した。
　着替えやタオルなどをスポーツバッグに入れて一纏めにしてあるのだが、係の人間をまだ見つけられていない鴻である。
「それなら、あっちの方で係の人見かけましたヨ。あ、でも、魚出しとくの忘れないように注意で！」
「……魚？」
　ぴくり、鴻の動きが止まる。
　問い返されて、武道は朗らかに笑った。
「そうそう、奉納用の魚！　俺はホラ、見て見て、サンマさんフィギュア！」
　いっぱい売ってたからカッテキタ！　という武道の声を、鴻は遠くに聞く。
（そういや到着後は、お社に魚を……やべ、用意するの忘れてた……！）
　瞬間、頬をちょっぴり冷たい汗が伝うも、

（……湖を渡る最中に魚捕りにも挑戦するか）
　と、間もなくして野性味あふれる案に辿り着く鴻。ワイルドである。
「鴻さん？」
「ああ、いや、何でもねぇ。途中で足がつったりしないよう気をつけろよ」
「ガッテン！　バッチリッス！」
　にっと白い歯を零して、武道はとんと自身の胸を叩くのだった。

　三夜湖のほとりで、羽生碧南は困惑しきり、本日幾度目かのため息を零した。
「ううっ、どういうことなのこれ……」
　クラス担任である浅井幸太先生に「羽生、せっかくだから泳いでお社を目指そう！」といきなりに誘われた碧南は、その勢いに押し切られる形で寒中水泳をすることが決まってしまったのであった。
　今は１１月の下旬、吹く風の冷たいのは勿論のこと、湖の水も冷え切っているに違いない。
　しかも、湖を泳ぐということは当然水着姿になるということで。
（１１月に水着になるの、寝子祭の前夜祭でミスコン水着部門へ参加したから２度目だよね……）
　なんて遠い目をする碧南、既に現実逃避気味である。
　ちなみに、１度目の時もバスケ部の仲間に退路を断たれた末のミスコン参加だ。
　本人の意思を置き去りにここまで水着と縁があるというのも、なかなか稀有なことかもしれない。
　さて、そんな碧南の本日の水着は、ミスコンの時に着たものではなく競泳水着だ。
（だって、あの水着じゃますます寒そうだし）
　というのが碧南が競泳水着を選んだ理由である。
　すらりとした長身に、バスケットボールで鍛えられた抜群のプロポーション。
　スマートなデザインの競泳水着は、彼女の魅力を存分に引き立たせる。
（私、寒いの苦手なのになぁ……）
　と、またまたため息を零す碧南の姿に周囲の男性陣がどよめくが、碧南本人はその視線には気づかないのであった。と、その時。
「羽生、もうすぐ出発だぞ！　準備体操は済ませたか？」
　少し離れた所から、こちらは水着とねこ耳に加え気持ちの方も準備万端の浅井先生が碧南へと声をかける。
　碧南は「今行きます！」と慌てて返事をすると、手招きをする浅井先生の元へと駆けていった。