１１月の★ハッピーバースデー｜リアクション

１１月の★ハッピーバースデー

☆１７日

　木天蓼大学、休み時間。
　講義の合間の移動中、理工学部の嘉島和穂は教育学部３年のクルト・エールヴァールを見かけた。
　187cmで金髪、おまけに美形なクルトは人波の中でも目立つ。
「お前、今日誕生日だろ？　何かないのかよー？　寂しいヤツだなー」
　声をかけようかと思っていると、クルトの友人の大きな声が耳に入ってきた。
　言われたクルトは特に気にする様子もない。
「確かに誕生日だが、別段これと言ってはな……。他の誰かの誕生日なら祝うが、自分のモノはそう意識するものでもないだろう……？」
　のんびり屋の和穂だが、テンションを上げて声をかけた。
「……お、お誕生日、なんですか？　わー！　おめでとうございます！」
　だけどもちろんプレゼントなんて何にも準備していない。
（お誕生日がわかってよかったけど、クルトさんのこと、知らないことばっかりでちょっと悲しい）
「ど、どうしましょう。すみません知らなくて……」
「お、用事を思い出した。後でな」
　和穂の様子を見て、クルトの友人はウィンクして行ってしまった。

「え？　ああ……ありがとう」
（何故謝るんだ？）
　和穂のことは良い後輩として好ましく思っているクルトであるが、この反応は理解できない。
「な、何か……欲しいもの、って、ないですか？　……あの、お祝いしたくって！」
　少し前まで「彼氏が欲しい！　いちゃいちゃしたい！」が口癖だった和穂。
　好きな人ができて、めっきりその言葉を口にすることはなくなった。
　恋に恋する時代は終わったのだ。
　クルトが好き。でもどうしていいかわからない。
　一方そんな気持ちに気づかないクルトは和穂の様子が理解できずにいた。
（……皆は、自分の誕生日をそこまで気にするのか？　和穂ちゃんは何故こんなに慌てているんだ？　気を使わせてしまったか……）
　普段気配りや気遣いは出来るが、自分に対する好意には鈍感なクルトだった。
「祝ってくれる気持ちだけで嬉しいのだがな。欲しいもの、か……」
　突然聞かれても思いつかない。
「何か、趣味とか……好きなものとかないですか？」
　この機会にクルトさんのことを少しでも知りたい。
　そう思った和穂だったが。
「……そうだ。そう言えば和穂ちゃんはダーツが得意なんだったか？」
「えっ、えーっと、そう……ですね。と、得意って言うか、好きなので……」
　謙遜したが、和穂の腕前はＡフライト。高い実力のある上級者だったりする。
「実は、どんなものか少し気になっていてな」
　なんだか、自分に興味を持って貰えてるような気がして、和穂は嬉しかった。
　ちょっと照れながらダーツの説明を始める。
「ダーツってもちろん中心に当たるほうがいいんですが、テクニックだけじゃなく、戦略も必要なんですよ。そして精神力も。ぜひ一度やってみてほしいです」
　少しの躊躇いの末、勇気を振り絞って、和穂は言った。
「……よっ、よかったら……わ、私でよかったら……ご一緒しましょうかっ。えーと、ちょっとなら教えたりもできるかもしれない、なんて……！」
「そうだな。プレゼントに、ダーツの事を教えて貰う、と言うのでどうだろうか？」
「いっ、いいんですかっ！　そ、それでお誕生日プレゼントになんて、おこがましいかもですけど、ええと……」
　震えている手に気付かれませんように、と和穂は願った。
「日にちは、そうだな。バイトのない日なら大丈夫だ」
「あっはい。予定、開いてる日は、えーと」
　慌てて手帳を開いて予定の示し合わせをする。
「今まで貰った事のないようなプレゼントだな。ありがとう、楽しみにしている」
　自分の誕生日すら新しい挑戦の機会にする、真面目でストイックなクルト。
（やっ……たー……！　で、デートだっ……なんて、思っちゃだめかな？）
　すっかり舞い上がりつつ、調子に乗っていないか心配になる和穂である。
（楽しんでもらえるよう、しっかり準備しなくちゃ……）