１１月の★ハッピーバースデー｜リアクション

１１月の★ハッピーバースデー

☆２９日飲み会にて

　タクシー運転手の円城徹は、客待ちの間に手帳で今日の予定を確認した。
　間違いない。
（今日は『檀屋』店主の御堂地さんの誕生日だ）
　檀屋は旧市街にある、徹がたまに顔を出す煙草店だ。
　店主であり歳の離れた飲み友達である御堂地瑛華に、先月は徹の誕生日を祝って貰った。
　いつもお世話になってる分も込めて今度は自分が祝いたいと思っている。
（確か定休日だったが、用事が無い限りは多分店にいるだろう）
　幸い天気もよく、道も混んでいない。
　個人タクシーと独り身の気軽さで、今日は早めに仕事を切り上げて檀屋に行くことにした。

　参道商店街、檀屋。
　『本日定休日』の札は下がっているもののシャッターは開いている。
　着物に黒い革コートを羽織った瑛華は定休日でも店の中で煙草を吸ったり発注作業をしたりしていて、入る人がいれば拒まない。
　常連客はその事を知っている人も多い。
（夕方か。そろそろ店を閉めて飲みに行こうかね）
　施錠していると、徹がやってきた。
「おや、お出かけかな」
「あぁ、丁度良い。これから飲みに行こうと思ってたんだ。付き合うかい？」
「喜んで」
　二つ返事で了解し、二人は近くの居酒屋に向かった。

「最近はめっきり冷えてきたねえ」
　熱燗と煮込みと他適当にいくつか頼むと、瑛華は持ってきた煙管に刻み煙草を詰めた。
「ああ、本当に。熱燗が五臓六腑に染み渡るね」
　徹が相槌を打つ。
　瑛華は超が付く程の冷え性だと聞いた。寒さは切実な問題なのだろう。
　飲んだり食べたり、他愛ない会話を楽しんだが。
（ここまで誕生日の話は全く無い。もしかして忘れているのか……？）
　女性は年は取りたくないかもしれないが、瑛華はまだそういうことを気にする年齢ではないし、気にするタイプでもなさそうに思える。
（客の誕生日は覚えているのに、自分の誕生日を忘れてるとは彼女らしい）
　徹はポケットからアルミ製のシガレットケースを取り出した。
　先月徹が誕生日に檀屋で手にとって見ていたものだ。その様子を見ていた瑛華が帰り際にプレゼントしてくれた。
「こないだはありがとう。大事に使わせてもらってるよ」
　瑛華は、プレゼントしたものだと思い出したようだ。
「ああ、気に入ってもらえたならよかったさね」
　御堂地さんと檀屋が多くの常連客に慕われている理由はこの心遣いなのだろうな、と徹は思う。
「ところで……今日は御堂地さんの誕生日だね、おめでとう」
　そう言われて瑛華はきょとんとした表情になった。
「あぁ……そういえばそうか……どうにも駄目だね、客の誕生日は覚えてるくせに、自分の誕生日はちっとも覚えちゃいない」
　思わず笑みを浮かべる瑛華。
「幾つになっても、誕生日を祝ってもらえるのは嬉しいものだね」
　そう言った瑛華に、徹はさりげなく用意したプレゼントの箱を手渡した。
「私からプレゼントだ。よかったら使っておくれ」
「これを私に？」
　驚く瑛華に徹はウィンクする。
「切子のロックグラスだ。御堂地さんはお酒が好きだからね。良い酒を飲むには良いグラスが必要だ」
　箱を開けると、広口のカットグラスが現れた。瑛華は嬉しそうにグラスを手に取る。
「わざわざ用意しなくてもよかったのに……でもありがとう、嬉しいよ本当に」
「美人がグラスを傾ける姿は実に絵になると思うよ」
「ふふ、私なんかで絵になるのかねえ」
　かなりご機嫌になった瑛華が言う。
「お陰で今日は気分がいいよ。そうだ、一杯奢ろう」
「いや、誕生日を祝うこちら側から奢るべきだろう？」
　徹は反論するが。
「いやいいんだ、飲みに誘ったのはこっちなんだしね。奢らせて欲しいんだよ」
　瑛華の満足そうな笑顔に、徹も自然と顔がほころぶ。
「折角の御好意だし、それじゃあありがたくいただくとしようか」
（後日、皆と飲むとき改めてお返しをする機会もあるだろう）
　そう思いながら徹は煙草に火をつける。　
　のんびりと、二人は杯を交わした。

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あとがき

担当マスター：天村花海
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お誕生日を迎えられた方、おめでとうございます！
一年に一度しかないお誕生日を書かせていただくのは、プレッシャーでもあり光栄なことでもありました。
皆様の１年が充実したものでありますように。

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