１１月の★ハッピーバースデー｜リアクション

１１月の★ハッピーバースデー

☆１日

　参道商店街の薬局「アネモネ」。
　娘の毒島林檎が白衣に赤いマフラーを巻いて店番をしているところに、両手に荷物を提げたメイソン・ブリッジスがやってきた。
　銀色のポニーテールの林檎が、赤い瞳を金髪のメイソンに向ける。
「いらっしゃい……」
「今日は買い物じゃないんだ。林檎ちゃん誕生日だろ？　お祝いしたいんで部屋に上がっていいかな」
「……そういえば今日俺の誕生日だった。この前遊んだ時に誕生日について聞いてたような……」
　先日メイソンに話したことを思い出しながら林檎はつぶやいていた。
『わー！　ありがとう、メイソン君！　男の子にお祝いされるの初めてかも!』
　冷静な男らしい口調で冷淡な印象の林檎だが、実は人見知りで繊細な可愛らしい性格だ。
　そして心の声を無意識に小さな声で吐露してしまう癖がある。
「親父さんとお袋さんは？」
「妊娠中のお袋の定期健診に親父が付き添って病院に行っちまった」
「そうか。それじゃ二人の分までお祝いするよ」
　メイソンは林檎にとって親しい男友達だったが、つい最近流れで初キスしてしまい。恋愛には鈍感とはいえ、ちょっと男性として意識……警戒している。
　とはいえ、誕生日を祝ってもらえるのは素直に嬉しい。男性個人から祝われるのは初めてだし。
『ちょっとドキドキだね！』

（具体的な日付をふとした切欠で聞けたのが幸いだったよ）
　記念に残る様な１日を過ごさせてあげたい、としっかり計画しているメイソンである。
（用意したプレゼントは抜かりなし！……喜んでくれると良いけれど）
「お邪魔するよ」
「遠慮することはない、楽にしてくれ」　
　林檎の部屋に上がりこんだメイソンは、さっそくホールケーキを手渡した。
「ありがとう……祝ってくれるのなら喜んで受けよう」
　箱を開けば、ケーキには林檎へのお祝いメッセージが。
『わあ！　名前入りのケーキだ！　二人で食べられるの嬉しいな』
　目を見開いた林檎が心の声をつぶやく。
　見かけによらず大食いな林檎は、小さなケーキを食べるたびに『もうちょっとあったらいいのに……』とため息をついているのだ。
　早速飲み物を用意し、蝋燭を吹き消して。
　二人はケーキを食べ始めた。
「……美味い」
「口に合って良かった。ところで、プレゼントがあるんだ」　
　ホールケーキをモリモリ食べる林檎の食べっぷりに見惚れながら、メイソンが大きな包みを取り出した。
　開くと、ウェルシュ・コーギーの等身大ぬいぐるみが出てきた。
　メイソンの愛犬、ジョニーによく似ていた。
「……ありがとう」
『わあ、ジョニーみたいに可愛い!　私大切にするよ！』
　つぶやきながら林檎がぬいぐるみを抱きしめる。
　予想通りの反応に、メイソンはにっこりしながら更に言う。
「もう一つプレゼントがあるんだ」
　包みから、赤黒チェックのアフガンストールを取り出す。
　マフラー愛好家の林檎はいつもマフラーをしているが、ストールは使ったことがなかった。
「ストールか……俺に似合うのか？」
『でも嬉しいな♪』
「巻いてあげよう」
「ああ……ありがとう」

　ストールを広げながら巻こうとすると、顔が近づく。
　メイソンは居ても立っても居られなくなって、そのまま徐ろに口付けをする。
「な、何を！？」
　ぬいぐるみが林檎の手から滑り落ちた。狼狽えている間に抱きすくめられ、いろんなところを触られている。
「……さっきのケーキの味、まだ残ってる」
　メイソンがぺろりと唇をなめた。
「や……」
『力が抜ける……だ、だめっ、大事な一線は守らなきゃ！』
「気持ち良くしてあげたいんだ、こないだみたいに……」
「……こ、こないだは……」
　うっかり媚薬を飲んでしまった時の痴態が蘇り、林檎の頬は真っ赤に染まった。頭が痺れたように流されながら、必死に抵抗する。
『いやっ、恥ずかしい……あっ、でも……』
　ずいぶん長いことだったような、あっと言う間だったような。

『うう、恥ずかしかったよ……とんだ誕生日サプライズだよ』
　

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