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１１月の★ハッピーバースデー
☆２０日深夜
「ありがとうございます。おかげさまで１６になりました」
加瀬 礼二は、星ヶ丘のホテルのパーティー会場で笑顔を浮かべていた。
１６歳が主役となるにしては聊か遅い時間だが、親の仕事の付き合いがある人間に囲まれての誕生日パーティー。
疲れてはいるが、読者モデルも務める礼二の美しい笑顔には一点の曇りもわざとらしさも見えない。
優等生らしい美辞麗句の受け答えもそつがない。
「それはご心配をおかけしましたねぇ。お心遣い、父に伝えておきますよ。……っと、失礼しますね」
会話の合間に、メールが着信しチェックする。父からだ。
一瞥すると携帯をしまい込んだ。愛情あふれる（と父は思っている）メールも、礼二の心には響かない。
礼二の親は世界各地でカジノを抱えた高級ホテルやリゾート施設を展開するParadisoグループを経営している。
高校生ながら家業の手伝いをする礼二。すり寄る大人たちと交わす言葉は、誕生日は口実で実際は仕事の話だ。
（慣れたことですが、父親からのメールと電話、無駄に多いプレゼントが届くのは流石に疲れました）
「皆さま、宴もたけなわではございますが……」
司会者がアナウンスする。見えない仮面をつけたパーティーもようやくお開きだ。
車を断り、礼二がやっと一人になった時にはすでに深夜だった。
（パーティーも仕事の内ですが些か疲れました。マンションに帰っても面倒事があるので寄道でもしましょうか）
晩秋の夜道、自然と足が馴染みの仮宿に向いた。
星ヶ丘寮東エリアの一室で、高校２年の弥逢 遊琳は芸術科の課題製作をしていた。
いつもならもう寝ている時間だが、おかげでチャイムに気づいた。
「こんばんは、遊琳センパイ。お邪魔してもいいですかねぇ」
金髪にヘラリとした笑顔の後輩を、遊琳は嫌な顔一つせず柔らかな調子で迎えた。
「いらっしゃい。こんな時間だから夕食は要らないだろうけれど、眠るのは少し待って」
（どうしたのかとか、どこへ行ってたとか聞かないんですよね。こちらの世話を焼きたがる癖に、こちらが引くラインだけは決して踏み越えない）
勝手知ったる遊琳の家は暖かった。
コートを脱ぎ上がり込みながら、礼二は思う。
（俺にとっては酷く都合の良い人間。人の善意、好意を利用する人間のクズって自覚はありますよ、ええ。でも遊琳センパイはその他大勢とは少し事情が違いますので）
童顔で礼二より背の低い遊琳は傍目には先輩のように見えない。
だが世話を焼く様子は先輩という以上に、我が子の面倒を見る母のようだ。
礼二をテーブルにつかせると、遊琳は台所へ向かい冷蔵庫を開けた。
（随分前に見た雑誌の中のインタビューにあった礼二の好きな物）
冷蔵庫の中の小さなティラミスを取り出す。
「本当は試作品なのだけれど。通い猫に次なんてもの求める気はないから」
甘味処の息子である遊琳の特技は料理。和菓子でない物を作るのが少し癪だったのは内緒だ。
元々後輩に弱いけれど、夜は遊琳を更に優しく素直にする。
礼二の前に置いた時テーブルの上の物に目が留まった。
昼の内に自分で摘んできた撫子と薄橙の小さな秋薔薇、そしてウィンターコスモスを活けたジャムの空き瓶。
（何の気なしに摘んで飾っていた物だったのだけれど、今はその意味が分かった気がする）
ふと思い立つと、遊琳は課題製作をしていた部屋に向かった。
細いリボンを1本取って戻る。
どうするのかと見ている礼二の前で、花を生けた瓶の口に結いつけた。
（ああ、やっと僕からのプレゼントは揃った）
ささやかでも礼二を癒せる様な優しい時間をあげられたら。
礼二に向き直り、にっこりと告げる。
「誕生日おめでとう、礼二」
軽く見開かれた礼二の目が、細くなり笑みとなった。
「ありがとうございます」
素直に、口をついた言葉。
「ありがとうございます、遊琳」
敢えてセンパイを外して名前を呼ぶのが、礼二なりの敬愛と感謝の意。
その気持ちを感じ取って、遊琳は微笑む。
（当日ではないけれどきっとこれが僕達の正解。ありきたりでしかないものも、君にだけは素直に委ねよう）
礼二は、ゆっくりと好物のティラミスを口に運んだ。
「It tastes good……」
こぼれ出た英語は、本音を口にするときだけ使う母国語。
ほどよく冷えた手作りのティラミスは、これまで食べたどんな高級品より、心を暖めてくれた。
ちなみに、イタリア語でTirami suは『私を引っ張りあげて』転じて『私を元気付けて』という意味があるという。
こちらに向ける遊琳の優しい眼差しに気づき、笑みを向ける。
（美味しいです。けれどこちらは餌も与えない食えない男ですよ、遊琳）
だが遊琳は見返りなど求めていない。
ただ礼二が食べる姿を満足そうに見守る。
恋心さえ眠る、静かな秋の夜は更けていった。
「ありがとうございます。おかげさまで１６になりました」
加瀬 礼二は、星ヶ丘のホテルのパーティー会場で笑顔を浮かべていた。
１６歳が主役となるにしては聊か遅い時間だが、親の仕事の付き合いがある人間に囲まれての誕生日パーティー。
疲れてはいるが、読者モデルも務める礼二の美しい笑顔には一点の曇りもわざとらしさも見えない。
優等生らしい美辞麗句の受け答えもそつがない。
「それはご心配をおかけしましたねぇ。お心遣い、父に伝えておきますよ。……っと、失礼しますね」
会話の合間に、メールが着信しチェックする。父からだ。
一瞥すると携帯をしまい込んだ。愛情あふれる（と父は思っている）メールも、礼二の心には響かない。
礼二の親は世界各地でカジノを抱えた高級ホテルやリゾート施設を展開するParadisoグループを経営している。
高校生ながら家業の手伝いをする礼二。すり寄る大人たちと交わす言葉は、誕生日は口実で実際は仕事の話だ。
（慣れたことですが、父親からのメールと電話、無駄に多いプレゼントが届くのは流石に疲れました）
「皆さま、宴もたけなわではございますが……」
司会者がアナウンスする。見えない仮面をつけたパーティーもようやくお開きだ。
車を断り、礼二がやっと一人になった時にはすでに深夜だった。
（パーティーも仕事の内ですが些か疲れました。マンションに帰っても面倒事があるので寄道でもしましょうか）
晩秋の夜道、自然と足が馴染みの仮宿に向いた。
星ヶ丘寮東エリアの一室で、高校２年の弥逢 遊琳は芸術科の課題製作をしていた。
いつもならもう寝ている時間だが、おかげでチャイムに気づいた。
「こんばんは、遊琳センパイ。お邪魔してもいいですかねぇ」
金髪にヘラリとした笑顔の後輩を、遊琳は嫌な顔一つせず柔らかな調子で迎えた。
「いらっしゃい。こんな時間だから夕食は要らないだろうけれど、眠るのは少し待って」
（どうしたのかとか、どこへ行ってたとか聞かないんですよね。こちらの世話を焼きたがる癖に、こちらが引くラインだけは決して踏み越えない）
勝手知ったる遊琳の家は暖かった。
コートを脱ぎ上がり込みながら、礼二は思う。
（俺にとっては酷く都合の良い人間。人の善意、好意を利用する人間のクズって自覚はありますよ、ええ。でも遊琳センパイはその他大勢とは少し事情が違いますので）
童顔で礼二より背の低い遊琳は傍目には先輩のように見えない。
だが世話を焼く様子は先輩という以上に、我が子の面倒を見る母のようだ。
礼二をテーブルにつかせると、遊琳は台所へ向かい冷蔵庫を開けた。
（随分前に見た雑誌の中のインタビューにあった礼二の好きな物）
冷蔵庫の中の小さなティラミスを取り出す。
「本当は試作品なのだけれど。通い猫に次なんてもの求める気はないから」
甘味処の息子である遊琳の特技は料理。和菓子でない物を作るのが少し癪だったのは内緒だ。
元々後輩に弱いけれど、夜は遊琳を更に優しく素直にする。
礼二の前に置いた時テーブルの上の物に目が留まった。
昼の内に自分で摘んできた撫子と薄橙の小さな秋薔薇、そしてウィンターコスモスを活けたジャムの空き瓶。
（何の気なしに摘んで飾っていた物だったのだけれど、今はその意味が分かった気がする）
ふと思い立つと、遊琳は課題製作をしていた部屋に向かった。
細いリボンを1本取って戻る。
どうするのかと見ている礼二の前で、花を生けた瓶の口に結いつけた。
（ああ、やっと僕からのプレゼントは揃った）
ささやかでも礼二を癒せる様な優しい時間をあげられたら。
礼二に向き直り、にっこりと告げる。
「誕生日おめでとう、礼二」
軽く見開かれた礼二の目が、細くなり笑みとなった。
「ありがとうございます」
素直に、口をついた言葉。
「ありがとうございます、遊琳」
敢えてセンパイを外して名前を呼ぶのが、礼二なりの敬愛と感謝の意。
その気持ちを感じ取って、遊琳は微笑む。
（当日ではないけれどきっとこれが僕達の正解。ありきたりでしかないものも、君にだけは素直に委ねよう）
礼二は、ゆっくりと好物のティラミスを口に運んだ。
「It tastes good……」
こぼれ出た英語は、本音を口にするときだけ使う母国語。
ほどよく冷えた手作りのティラミスは、これまで食べたどんな高級品より、心を暖めてくれた。
ちなみに、イタリア語でTirami suは『私を引っ張りあげて』転じて『私を元気付けて』という意味があるという。
こちらに向ける遊琳の優しい眼差しに気づき、笑みを向ける。
（美味しいです。けれどこちらは餌も与えない食えない男ですよ、遊琳）
だが遊琳は見返りなど求めていない。
ただ礼二が食べる姿を満足そうに見守る。
恋心さえ眠る、静かな秋の夜は更けていった。
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
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- 2015年10月11日
- 参加申し込みの期限
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- 2015年10月18日 11時00分
- アクション投稿の期限
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- 2015年10月18日 11時00分
