紫陽花屋敷の噂｜リアクション

紫陽花屋敷の噂

＊猫鳴館でにゃあと鳴く

「移住、という線では該当者はいませんでしたね。別荘持ちの方たちにも話をきいたのですが、心当たりはないそうです」
「なるほどのう。ならばやはり、寝子島から出て行った、と考えるのが自然じゃろうな」

加瀬礼二の差し入れしたケーキをもごもごと口に含みながら、大田原いいなは「仁義ある寝子島教会」で収集した情報をまとめていた。

「図書館では寝子島と彼我花の２つのわーどで検索をかけたんじゃが、該当する記事はなかったのじゃ」
「そうでうすか……」
「じゃがの、仁義ある寝子島教会で面白い話を聞いたのじゃ」

ケーキの最後の一口をフォークで刺し、にやりと笑ってみせるいいな。

「あの屋敷は前々からあったそうじゃ。それこそ絵に描いたような仲のいい親子４人が暮らしていたんじゃと。
昔は紫陽花なんぞなかったらしい。その代わりに夏になると大きなひまわりで埋め尽くされていたそうじゃよ」
「紫陽花ではなく、ですか？」
「そうじゃ。まぁ聞いたのがご老体じゃったから、どこまでこの言葉が信用できるかはわからんのだがのう……」

用意された紅茶をすすり、いいなはほうっと息をついた。

「一度、草薙さんに連絡してみます」
「なんじゃ、仇敵草薙は屋敷の方へ向かっておるのか」
「みたいですよ……あ、もしもし、草薙さんですか」
『加瀬か』
「そうです加瀬です。もう少し楽しそうに会話してくださいませんかねぇ」
『情報か？』
「せっかちな男性は嫌われますよ～？」
『いいから早く話せ』
「怒らないでくださいよぉ。ほんの冗談ですって」

電話の内容を聞きながら、礼二は龍八になにか恨みでもあるんじゃないかという疑問を抱くいいなだった。

「俺と大田原さんの調査結果としまして、まず紫さんは寝子島の方じゃありません。少なくとも今は」
『本土の人間という事か』
「はい。それともうひとつ。どうやら紫陽花屋敷は、以前はひまわり屋敷だったようです」
『なるほどな。だから……』

そこまで言って、電話越しに龍八が黙る。
しばらくして通話が終了した。

「さて、どうじゃ？礼二殿。儂らも一度、屋敷の方に足を運んでみんか」
「そうですね。……紫さんにもう一度お会いしたいですし」

紅茶を飲み干し、いいなと礼二はそれぞれ傘を片手に紫陽花屋敷へと出発した。