悠久の時の彼方へ～赤壁炎上｜リアクション

悠久の時の彼方へ～赤壁炎上

　皆に元気づけられる孔明を、灯斗南はじっと見つめていた。赤壁の戦いに参加することになったが、味方に正義があるわけではない。「歴史を守る」こと以外に戦う理由が見いだせない斗南は、答えを求めて孔明に問いかけた。
「まだ漢王朝の臣下として大義を持っている曹操と、なぜ戦おうとする？」
　孔明は、膝にもふもふを乗せたまま、静かに答える。
「道理に従えば、曹操に天下を取らせるのが最も国を安定させられるだろう。……だが、私は劉備殿の中に別の道を見出した。あのお方は大勢の民の意思を背に負っていらっしゃる。だから、劉備殿のために天下への道を作りたいのだ」
　孔明は相変わらず弱々しい口調だった。しかし、斗南は彼の中にはっきりとした「彼なりの大義」を読み取った。
「どうせどちらにも正義がないのなら、誰に味方しても変わらない。なら、気に入った方を助けるだけだ」
　そう言うと、斗南は布で顔を隠し、孔明の目の前でろっこんを発動させた。斗南の手のひらから炎が現れる。孔明は驚いて斗南に問うた。
「なんと！これは妖術か？」
「似たようなものかな。僕が持ってるこの力を使えば、ある程度なら風向きを気にせず火を放つことができる」

「それなら、俺にちょっと考えがあるぜ！」
　風雲児轟が口を挟んだ。
「うまくいけば、火計のとき上手く燃え広がる補助になるかもしれねえ。結構、前線の奴らも危険な状況になるだろうけどな」
「ちょっと待って」
　今度は、尾鎌蛇那伊が轟の言葉を止める。
「火計の前段階の、苦肉の策も今は使えないのよ。黄蓋が偽りの降伏を申し出る部分は、変えずに事を進めたいわね。黄蓋将軍が動けないなら、代理の使者が向かう手はありよね。この考え、黄蓋将軍に献策できないかしら？」
「問題をまとめると」
　孔明が顔を上げる。彼なりに話に耳を傾け、考えていたのだ。
「小舟を曹操軍に近づける口実の偽りの降伏をいかにうまくやるかということと、曹操の船団に放った火をどう燃え広がらせるか、ということだ。それぞれ意見を出し合って、ひとつの策にするといい……」
「俺は、どちらでもなく“あっち”で動いていいかい。曹操軍側だ」
　ここで手を挙げたのは、八神修だった。
「無風はやはり、火計には厳しい。だから、曹操軍を撤退させる後押しがいる。それには、曹操軍の軍装一式と小舟が一艘いるのだが……」
「なら、僕に任せておいてよ」
　日暮ねむるにも、頭の中になにか考えがあるようだ。
「僕は、曹操軍の兵士から装備を借りてこようと思っていてね。それには勘助君の力が必要なんだけど……うまくいったとき、一着余分に持って来ればいい」

「なぜそなたたちは、これほど力を尽くしてくれるのだ？いつも肝心の時に役に立たぬ私などのために……」
　皆を見ていた孔明は、卑屈そうな表情で疑問を呈した。それに答えたのは、ナタリア・シシロヴァだった。

「どのような人物であれ、遺した功績を考えれば尊敬すべき軍師でしょう」
「……私が、尊敬すべき軍師だと？」
「少なくとも、ここにいる誰よりも、です。私たちの策など茶飯事のように出してしまう役目なのですから。―――さあ」
　ナタリアは孔明を促した。
「策をもっと練らないといけません。狼狽える時間は終わりましたよ。勝利するために、立ち上がってください」

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