たわー・おぶ・貴魔志｜リアクション

たわー・おぶ・貴魔志

●キマシタワー
　静かな夜だった。草むらからは虫の声が聞こえて、自らの足音がそれを汚しているかとさえ、思ってしまう。
「あの、月さん。どうしたんですか？」
　北条冬華は自らの手を引き、半歩前を行く桜月に問うた。
　――結局、抵抗などできなかったのだ。
　返答はない。普段と違う様子に戸惑う冬華。不審感はない。ただ心配なだけだ。だから着いていく。すでに月の纏った、塔の香りの影響を受けているのだが、冬華は知る由もない。
　入った森は黒い斜幕を下ろした。道は暗く、虫の音すらもう聞こえなくなった。互いの息遣いが聞こえ、つないだ手から脈動を感じた。そのまま土の踏まれる音を追っていると、冬華の目前に突如、塔が現れた。
「月さん、ここは……？」
　やはり返答はなかった。手を引かれるまま、開かれた大扉をくぐる。
　濃密な、甘い甘い匂いが二人を包み込んだ。
「あ、れ……？」
　一瞬だけ冬華の身体が震えた。
　抵抗はそれだけだった。

「……こんなところに、塔なんてあったっけ？」
　しばしその塔に圧倒されていた白真白は、二人が塔の入り口に消えていくのに気づいた。両開きの大きな扉が二人を飲み込む。
　――今のって、同じクラスの冬華ちゃん……と、もう一人は月ちゃんだよね？
　二人の、仲睦まじく歩く姿にただならぬ興味を覚え、真白はこっそりと追って来ていた。
　あの中に、何があるというのか。
　真白は扉に駆け寄り、扉の隙間から中へと入った。
「……！」
　塔の中は、女性しかいなかった。豪華な内装に一瞬戸惑うも、真白は女性たちのありように目を輝かせた。
「すごい……あの人や、あんな小さな子たちまで」
　桜栄あずさと剣崎エレナがまさかあんな激しい関係だったのも驚きだが、小学生としか思えぬ女児たち（ミルカ・アハティアラ、ゼロ・シーアールシー、椎名あさひ）が、人形のように動かぬ少女（双葉由貴→女体化中）を抱えて上階へと消えていく。階段を登っていく姿はほかに、二人連れのメイドたち（羽入癒雨、舞洲絵奈）や、月と冬華のものがあった。
　――さすがに、あの雰囲気に混ざるとお邪魔かな。
　そう思った真白が、一階に残った者がいないか見回していると、翡翠のような瞳と視線が合わさった。
「葉月さん、どうしたの？――あ、新しい人が来たんだね！」
　ゴシック系の服を着た三宅葉月にエマ・リシェが声を掛け、続いて真白に気づいた。
「わたしたちもさっき来たばかりなんだ。良かったら、お姉さんも一緒にどうかな？」
「いいの？」
　疑問には、葉月が小さく頷いた。
「わたしも、さっききたばかり、だから」
　抑揚を欠いた感じの、静かな声音だった。動きの少ない表情だ。同じ『人形のような』容姿でも、元気な妹という雰囲気のエマとは対照的だ。真白の顔は予期せぬ期待に綻んだ。
「喜んでご一緒させてもらうわ。まずは……お茶会といかない？」

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