日が暮れて、寝子島に夜の気配が広がった。
桜 月は十分暗くなったのを見てから、静かに寮を出た。この日初めての外出だった。
残照が山の向こうに輝いている。愛用の傘でそれを遮りながら、月は涼やかな闇の路へと歩を進める。彼女の行く先を照らすかのように、街灯が瞬き暗がりの中に光り出した。
そして月は、その光の下で見覚えのあるシルエットを目にした。
「…………」
桜栄 あずさと、
剣崎 エレナだった。連れ立って歩いていた。
理事長と一生徒。珍しい組み合わせかもしれない。
特に、あずさがエレナの腰に手を回して抱き寄せている光景なら、なおさら。
エレナもまた頬を赤らめ、どこか嬉しそうにあずさへ体重を預けている。
「……」
本人たちの自由。私が口を出すべきことでもない――いつもならそう思い、別の道を選んでいるところだろう。
ただその日は不思議なことに、月は二人の、仲睦まじく歩く姿にただならぬ興味を覚えた。心の中では別の道をという声が響いているのに、身体は勝手に、二人の後を追っている。二人の歩いた後は、良い香りがした。
二人は月が後ろにいるのも気づかず、ぴったりと寄り添って進んでいく。森へと入っていった。夕陽の気配はもうない。闇で見失わぬよう、月は歩く速度を上げた。
どれくらい歩いたろうか。
暗い森を抜けた月は、前方に大きな塔があることに気づいた。
――こんな場所に、あんな塔なんてあったか?
しばしその塔に圧倒されていた月は、二人が塔の入り口に消えていくのに気づいた。両開きの大きな扉が二人を飲み込む。月は扉に駆け寄り、扉の隙間から中を見た。
「……!」
塔の中は、女性しかいなかった。
豪奢な調度品と、きらびやかな照明の下、紳士淑女の談話室のような場所だった。ソファに座ったり、立ったまま飲み物を飲むなどして、その場に集った女性たちは小さな声で逢瀬を楽しんでいた。彼女らはいずれもあまりに近すぎた。指を絡め、頬を寄せ合い、抱き合うように身を寄せ合っている。
その中には、あずさとエレナの姿もあった。
中からは溢れんばかりの甘い香りがした。それを吸った途端、月の思考はぼんやりとした。同時に頭の中でだれかの面影が浮かぶ。
「――」
思わず後ずさった月は、一体何を思ったのだろうか。
ふと、彼女は扉に一枚の紙が貼られていることに気づいた。月明かりの中で、何事か書きつけられたそれを読んでいく。
『ようこそ 心より歓迎いたします
この貴魔志(たかまさね)の塔におきましては 淑女の淑女による淑女たちのための時間を 皆様に提供させて戴いております
まだ建設中ではありますが 一階のサロンにて皆様と存分に触れ合い 二階の個室ではこれと決めた方と濃密なひとときをお過ごしくださいませ
(個室には様々な衣装と道具を用意しております)』
塔の用途に気付いた月は冷ややかな目で続きを見――そこで息をのんだ。
『さて、ここまで読まれた貴女様につきましては すでに塔内の香りをお吸いになったのではないでしょうか
それは 気化した媚薬でございます
少々頭がぼんやりするでしょうが その状態の貴女様が 大事に思う女性・気になる女性に触れましたならば 塔内にお連れ戴くことができます
あるいは中にいる女性が気に入り そのまま一人で入ってくるかもしれませんね』
この塔は、神魂による産物だ。
危機を抱いた時には、身体の自由が利かなくなっていた。香りを吸い過ぎたのだ。塔の中のモノだけでない。追っていた二人の纏っていた香りが、既に影響を及ぼしていたのだ。
罠だった――そう思う頭の中が、霞がかったようになっていく。
――出ろ……
最後の理性を振り絞って、月は自らの影を動かす。
――塔から、離れて
目が虚ろになった月を、影が抱えて引きずっていく。彼女の意志が弱くなるのを反映してか、その動作は緩慢だった。
すでに紙の内容は見えない。だが、彼女の行動をあざ笑うかのような文面が、直接月の頭の中に浮かんできた。
『強い意志で塔から離れることは可能ですが それはいつまで保つでしょうか
流れに身をまかせ どなたか連れてくることを推奨いたします
戻られましたら 存分に一夜の逢瀬をお楽しみくださいませ スタッフ一同お待ちしております
一夜眠れば 今宵の体験は忘れるのでご安心を』
その後、月がどのようになったのか。
それは塔に訪れた者のみぞ知る。
こんにちは。叶エイジャと申します。
桜 月さんはガイドへの登場、ありがとうございます。
不参加となった場合は、何事もなく次の日を迎えたことになります。
・事件
貴魔志(たかまさね)の塔に関わった貴女は、中で女性たちとのひと時を過ごす――
頭の中を女性への好意で染め上げられ、塔に一人で入るor誰かを連れて(連れてこられて)来た、となります。
このシナリオは女性推奨&百合描写率高しとなります。
男性が参加される場合は、女体化が行われたうえで、女性陣に服の着せ替えや化粧を施される(でも自らの意志では動くことのできない)「人形」と化してしまうでしょう。
男性の方、動けず一方的に色々される状況に悶えてください。
女性の方、男性には色々よくしてあげてください。
友達と仲良く会話などして過ごす。百合を楽しむ。服の着せ替えなどを楽しんでくだい。
終われば、いつの間にか元居た場所に戻っています。
もしかしたら深層意識で、再び塔内で過ごしたいと思うかもしれません。
・塔内について
1Fはサロンです。ソファが十分な数存在し、お茶会などもできます。中央では踊ることもできるでしょう。
2Fの個室は、ホテルの部屋と同じです。特に仲良くしたい方、話したい方がいれば、ここでじっくり時を過ごせます。様々な衣装と、道具があります。わりと何でもあります。
スタッフの姿は見えません。必要なものはいつの間にか用意されています。
・登場NPCについて
桜栄 あずさ(スキンシップ積極的)
剣崎 エレナ(少々気弱・おしとやか。攻めに弱い)
が参加しています。正気ではないのでやや性格が変化しています。
それでは皆様の参加とアクション、楽しみにお待ちしております。