INFINITE†NIGHTMARE｜リアクション

INFINITE†NIGHTMARE

　その頃、足の赴くままに歩いていたサキリ・デイジーカッターは、中庭に辿り着いていた。
　中央にある噴水の隅に、同学年の少女——陽毬が腰掛けている。まるでサキリを待ち構えていたかのように——。
　そして少女は徐に立ち上がると、サキリと視線が合った瞬間にこんなことを言った。
「あなたも『剣』に呼ばれたの？」
　一体なんの話しだ、とサキリが困惑を顰めた眉で表すと、少女はすっと噴水のてっぺんを示した。

　台座の上に、剣が刺さっていた。

　否、正確には戴冠式に使われる儀礼剣のような見事な細工が施された黄金の柄が、台座ににょっきり生えている状態だ。刃物には目が無いサキリが思わず足を前のめりになった瞬間、頭の中に声が響いた。

『サキリよ、魔法王国の“守護者”よ——。私の声が聞こえますか？』

　その瞬間、サキリの頭の中に転生前の記憶が蘇った。
　魔法王国の守護者であった自分。その使命は、秘めたる力を持った姫君、陽毬を守ること。
「くそっ、こんな大事なことを忘れていただなんて！」

『この世界に危機が迫っている。貴方に“鋼を切るもの”を授けましょう』

　声に突き動かされるように、サキリは服が濡れることも気にせず噴水に足を踏み入れ、台座に踏ん張って柄に両手をかけた。

『転生せし王国の姫と世界を救う守護者となる、それが“魔剣使い”である貴方の宿命。
　さあ、引き抜くのです——！』

　サキリの腕は、まるでそこにあるものをただ持ち上げただけのような軽さで、台座に刺さる剣を引き抜いた。
　硬い石に突き刺さっていたにも関わらず、傷も、刃こぼれ一つすらない刀身のファルシオンが露わになる。
「いかにもラノベとかに出てきそうな剣だね、中二病な設定とかありそう」
『エクスカリバーでもフルンティングでもネイリングでも好きな名前で呼ぶといいですわ』
　声が消えると、サキリは『伝説の剣』を試しに振ってみる。刃がひゅんと風を切り裂いた時、刃先がわずかに当たった噴水がバターのように斬れた。
「おお凄い切れ味だ何でもスパスパ切れる。ところで——」
　噴水から降りたサキリが、陽毬に問いかけた時だ。
「ウォ……オ……ォオオ」
　そんな人間とも獣ともつかない咆哮が、校舎のそこかしこから響いてきた。
「今のは！？」
　怯える陽毬を背中に庇い、サキリは剣を構えた。後ろでひっと小さな悲鳴が上がる。二人の前に迫っていたのは、ひしめくような数の屍体——ゾンビだったのだ！
「サキリ君、どうしよう！　一体何が起こっているの？」
「そうか。姫は転生前の記憶が曖昧なのか」
　問いかける陽毬の手を取り、サキリはもう片手をまるで騎士が姫君に忠誠を誓うが如く自身の胸にあてた。