INFINITE†NIGHTMARE｜リアクション

INFINITE†NIGHTMARE

　振り返った先に立っていたのはエリセイたちと……死んだ筈の使用人、英二だった！
「あなたは、第一被害者の！？」
「ふふふ、それはブラフだよ。僕の正体は学者で、大道寺卿に死んだと見せかけておいて、その間に巨大モンスターについて書かれたこの古文書の解読を行っていたんだ！」
　英二は自信たっぷりにそう言って、懐から古文書を取り出した。
「ここには巨大モンスターの鎮め方も書かれている、んだよな？」
　エリセイに聞かれた英二は頷きながら、古文書を捲る。
「ええ、記述によりますと『愛の宝石』『勇気の宝石』『希望の宝石』の３つの宝石が揃った時に発する光を照射すると、沈静化して再び地中に帰って行くそうです」
「そんな便利もの一体どこに！？」
　陽毬が聞き返すと、英二の隣で時子が手を振っていた。
「この『光の魔法使い』さんに貰いました」
「っていう訳で陽毬ちゃんはこの緑のやつ。ロベルトは青いのでいい？　あともう一つは武道……ってあれ？　武道は？」
　三つの宝石を配っていたエリセイは、最後の赤い宝石を手にしたまま、キョロキョロと周囲を見回して武道を探していた。
「落ちたちゃったよ」
　イリヤに教えられ、エリセイは時計塔の下を覗き込んで、今度は紅緒の顔を見た。
「……どうしよう紅緒ちゃん」
「どうしようって……、どうしますの！？」
「このままじゃバッドエンドですね。紅緒さん、それでも大丈夫そうですか？」
「いやよ！」
イリヤに質問されて、紅緒はそこだけはハッキリと意思を見せた。
「私の作る物語は、絶対にハッピーエンドだと決めているの！」
「んじゃあこれ」
　エリセイは紅緒の腕を掴んで、彼女の掌に赤い宝石を押し付けた。
「もう悪者のクリムゾンエンプレスが改心したってことにしようよ」
「そんなの、話に脈略が無さ過ぎますわ。どうして敵であるクリムゾンエンプレスがそう考えるに至ったか、理由がちゃんとしていないと物語が……」
　一応作家である拘りを見せた紅緒がブツブツと言っていると、首を傾げていたイリヤがにこっと笑った。
「英二さんの言う宝石の力に合わせて、『愛』ではどうでしょうか？」
「愛……！？」
「この間流行ってた映画は、その言葉で全部が解決してました。だから愛さえあれば、『お話』は、どんなものでも、適当にどうにかなっちゃうのかなーって思って」
「あなた……恐ろしい事を言うわね」
　ごくりと喉を鳴らしてイリヤを見た紅緒は、頭の中で整理をつけて、ようやく頷いた。
　そして赤い宝石を掲げる。
「全て解決するのは、愛の力！」
　紅緒の空いた左手が、陽毬とロベルトを「早く」と促している。二人は慌てて紅緒にならってポーズを決めた。
「希望！」
「勇気！」
　三つの光りが合わさり透明になった瞬間、パイナポーテップが起き上がった。
「今だッ！」
　英二の声に合わせて、透明の光りがパイナポーテップに照射されると、その体が爆発四散して、光りとなって世界に降り注いだ。
「漆黒の刻もやがて終焉を迎える。
　純白の光が降り注ぎ全てのモノを包み込む。皆の手に自由を」
　手を組んだ時子の肩から光の鳥が舞い上がり、夜の空を照らし出す。そして『終』の文字が浮かび上がった。

「——やった！」

　誰がそう言ったのか、もうその場にいる人間の誰もが分からなかった。
　皆、それぞれ鳴り続けていた目覚まし時計を止めて、疲労を残した表情で布団から這い出していた。

　遅刻ギリッギリに目が覚めるとかタチ悪い悪夢だ……、そう思いながら。

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