猫鳴館、自治会長選任戦｜リアクション

猫鳴館、自治会長選任戦

●野外パーティ開始！

　会場は、寮内外の参加者ですでに賑わっている。
　昨日からパーティの準備を手伝ってきた天馬ひびきが、拡声器を片手に椅子に登る。
「みんな、選任戦お疲れさまっ！　毎度お馴染みの猫鳴館が、美味しい新鮮なキャベツ料理で皆さまをおもてなししまーす！」
　各所からあがる拍手と、口笛。
　学生支援部の働きのお蔭で、猫鳴館の裏庭のあたりには、昨日には影も形もなかったパーティ会場がしっかりと出来ていた。触手キャベツは移転済みだし、参加者が突如吊り上げられる危険もない。キャベツがあったあたりの畑は、昨日のうちにアネモネの手によって手入れされ、綺麗になっている。御剣刀が角材と板で工作した掲示板には、斉田珠喪が夜なべして作った会場案内図が貼られている。
　さて、当のこのふたりはといえば。
「けらけら、猫鳴館のカオスはあっしが作るよぃ！　――どうじゃ、瓢殿の声真似、似ておったかのう？」
　候補者たちの声真似をする珠喪をビデオカメラで撮影しながら、「似てる！」と刀は親指を立てる。
　刀は、後で皆が振り返れるようにとパーティの様子をカメラで撮影していた。
「実は声真似は得意なのじゃ。さあ、リクエストがあれば受け付けるぞ？」
「初島とかは？」
「うむ。あー、あー、ごほん。……ふぉふぉふぉ、猫鳴館の子泣きジジィじゃぞー」
　この声真似は、身内支援部や、寮生に大受けした。
「玉藻、カメラに向かってコメントを一言」
「うん？　声真似が受けて何よりじゃ。わらわはパーティを楽しんでおるぞ」
　こうして刀のビデオには、玉藻はじめ、たくさんの笑顔が収められていった。

　会場内には、欠食児童たちの腹を満たそうと、山のような料理が並べられていた。
　大福や庚たちの野菜に湯豆腐、けんちん汁。
　士のボタン鍋も、他ではなかなか食べられないと好評だが、猪の入手経路については深くは考えまい。
　また、このあとのキャベツ投票後に、購入されたキャベツを料理しようと準備に励む者たちもいる。あやめはさっぱりキャベツ鍋をしようと出汁を取っている。千唐や竜司が様子を見にきて、和やかそうな雰囲気だ。
　美桜はスネコスリと一緒にパーティを楽しんでいる。パーティの手伝いをしていた月乃は、スネコスリの毛皮を触ってみたいと美桜に交渉している。
　荒太郎、雅人たちがこの半日、炊きに炊いた武道の米で作ったおにぎりもある。雅人が提案したお茶のおむすびもある。真央も、変わりおむすびを作るのを手伝ったようだ。
　辰がお好み焼きを焼くというので、荒太郎も焼きおにぎりを焼かせてもらおうと、鉄板設置を手伝っている。
　なんとなく話しているうちに、この前、荒太郎が辰に人工呼吸された話題になった。
「あれ、もしかして初キッスだったか？」
「いや、それは……自分の初キスは幼稚園のときだから……」
　荒太郎は、初キスのときのことを思い出そうとしたが……なぜだか、相手の顔を思い出せなかった。
「幼稚園のときの記憶ってこんなものなのかなあー」

　一方、蓮は雅人のお茶おむすびを頂いていた。
　時子がやって来て、彼に深々と頭を下げる。
「蓮さん、先日は介抱していただきありがとうございました……どうしてもお礼をお伝えしたくって……」
　蓮は「いいえ、人として当たり前のことをしただけですよ」と仏のように微笑んだ。

「おや、そろそろ１時になりますね。候補者のみなさんによる、キャベツ叩き売りが始まるようです」